表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【7/31英語版電子先行発売!】雇われヒロインは、悪役令嬢にざまぁされたい  作者: 西根羽南
雇われヒロインは、悪役令嬢にざまぁされたい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/23

仮契約、成立です

「何の話?」


「俺はニーナが好きです。ニーナと一緒にいるのに身分が邪魔だというなら、捨てます」

「――は?」



「幸い、俺には兄がいますから、跡継ぎも大丈夫です。問題ありませんね」

「だ、駄目よ、そんなの」

 問題ないどころか、問題しか見当たらないではないか。


「何故ですか?」

「ご家族も驚くだろうし、エドのためにならないし。そもそも、エドみたいな深窓の御令息が市井で暮らせるとは思えないわ」

「ちょっと傷付きますね」


「真実よ。貴族社会も大変かもしれないけれど、市井で生きるのだって大変なのよ」

 一応納得したのか、エドモンドがうなずいている。

 ようやく伝わったのかと思う間もなく、彼は口を開いた。


「それなら、ニーナが俺のそばに来てください」

「ええ?」

「俺がそちらに行けないなら、そうするしかないでしょう」

「いや、そもそも何で私?」


「理由は言いましたけど。もう一度、言いますか?」

「え? いや、いい。いいわ。結構よ!」 

 理由というのは、さっきのニーナのどこが好きとかいうやつだろう。

 あんなものをまた聞かされては、こちらの身がもたない。



「……話が進みませんね」

 そう言ってエドモンドはニーナの左手を取ると跪く。

 嫌な予感がして、慌ててニーナもしゃがみこんだ。


「だ、駄目。何するつもりよ」

「何って、プロポ――」

「あー!」

 叫びながら、エドモンドの口を押える。

 すると、傷ついたと言わんばかりの顔でニーナを見上げてきた。


「……ニーナは俺が嫌いですか? 迷惑ですか?」

 美少年の上目遣いというものは、なかなかの破壊力だ。

 こんなに近くで見てはいけない。

 危うく酔ってしまうそうで、怖くなる。


「き、嫌いじゃないけど」

「なら、良いでしょう? 何が駄目ですか?」

 逆に、何故大丈夫だと思うのだろう。

 そういうところは、貴族らしい押しの強さのようなものが垣間見えている。


「私は野良猫ハンターの平民よ。公爵家のお坊ちゃんの気の迷いに付き合っている余裕はないの」

「はい、そんなニーナが好きです」

「や、やめてったら!」



「……約束したんです」

「約束?」

「ニーナのお母様と」


 衝撃の発言に、思わず立ち上がる。

「何で、お母さんと話なんてしているのよ」


「猫姿で見つかったのですが、何故か人間だとばれました。ご本人曰く、もうすぐお迎えが来るから、普通は見えないものも見えるのだそうです。『ニーナと仲良くしてあげて。あの子、頑張っちゃうから。そんなに頑張らないで良いよって、言ってあげて』と言われました」


 では、アイーダは死期を悟っていたのだ。

 余命の話は一緒に聞いていたが、やはり本人にしかわからない兆候があったのだろう。



「そう。……だったら、ぷ、プロ。……それはいらないでしょう? 普通に友達で良いじゃない。というか、普通に友達も身分的におかしい気がするけど」

 平民と公爵令息なんて、普通は出会うことさえあり得ない。


「普通に友達じゃ、ニーナを誰かにとられるじゃないですか」

「とられないわよ、とられたことないわよ」

 勢いでそう言ってから、何だか恥ずかしいことを言ってしまったと早々に後悔する。


「それじゃ、俺が初めての男ですか」

「言い方! 言い方がおかしいからね! 順番もおかしいから!」

 確かに男性と交際したことはないが、その表現は何か違う気がする。


「……なるほど、手順を踏めということですね?」

「いや、まあ、違うような」

「ではニーナ、まずは恋人からお願いします」

「そこは友達からじゃないの?」

「今まで友達期間のようなものですし、問題ありません」

 真剣な顔で手を差し出すエドモンドに、ニーナも困惑するしかない。



「あ、間を取って、仲の良い友達からなら……」

 エドモンドの手にニーナが手を乗せると、その上に更に手を重ねて優しく握られる。

 恥ずかしくて熱を持っているニーナには、冷えた手が心地良かった。


「……仕方ないので、今は妥協します。友達以上恋人未満というやつですね」

「何か違う……」

 すると、エドモンドは重ねていた手を解いてニーナの左手をとり、その甲に口づけた。


「早い! 進行が早いから! 友達でしょう?」

 慌てて手を引っ込めると、肩を竦められる。


「――何を今さら。俺の股間をじっくりと見ておいて」

「え?」


 そう言えば、猫のエドの時に性別確認で股間を見た。

 あれは猫だが、猫はエドモンドだったので……あの股間はエドモンドのものと言える。


「な、あ、あれは猫の! 猫だから!」

「あんな風に、無理矢理股間を見られたのは初めてです。ニーナは大胆ですね。それに、既に俺達は同衾していますし」

「言い方! さっきから言い方がおかしいの!」

 真っ赤になって怒るニーナを見て、エドモンドはため息をついた。


「そろそろ理解してください。俺はニーナを諦めるつもり、ありませんよ?」

 美しく艶っぽい微笑みに、言葉に詰まってしまう。



「……これも、何とかキャンペーンなの?」

 そうでもなければ、公爵令息が平民にこんなことを言うわけがない。

「……そうですね」


 肯定にほっとする反面、チクリと胸が痛む。

 これは一体、何だろう。

 さっきから妙な言い方をされたせいで、疲れているのかもしれない。


「ヒロインはニーナ。雇用主は俺。雇用期間は一生です。契約内容は、幸せな生活。……異存はありますか?」

 うなずきながら聞いていたニーナの動きが止まった。


「……それって、つまり」

「――結婚してください」

 笑顔のエドモンドを見ると、ニーナは大きなため息をついた。



「……契約内容と福利厚生を確認の上、仮契約からなら、考えるわ」

 いつかと同じような言葉に、エドモンドが笑う。


「――はい。仮契約、成立ですね。よろしくお願いします、ニーナ」



ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

明日からは「残念令嬢 〜悪役令嬢に転生したので、残念な方向で応戦します〜」の第六章を連載開始します。


詳細は活動報告をご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

-


「余命わずかの引退聖女は冷酷公爵との厄介払い婚を謳歌したい!」

-

英語版「雇われヒロイン」「The Hired Heroine Wants the Villainess to Gloat」紹介ページ

「The Hired Heroine Wants the Villainess to Gloat」

Cross Infinite World Hanami Nishine Rin Hagiwara

小説家になろう 勝手にランキング ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おめでとうございます。 生前にお母さんがエドと話していたとは……。 お母さんは全部分かってたんですね。母は偉大だ。 そして、病弱だったとは思えないエドの押しの強さ! なんという怒涛…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ