図書室に行く理由は本を読むためではない
僕が図書室に行く理由は本を読むためではない。女子高生の脇を見るためである。
高い所から本を取る時、夏服の袖からチラリと見える時があるだろう。想像しただろうか。そう。それを見に来ているのだ。
高校生の僕にとって、脇のチラ見えは文化祭や修学旅行などのメインイベントを抑えて堂々たる第1位の行事なのだ。
今まさに本を取ろうとしている女子がいる。
とても可愛い。真っ白でスベスベの肌にショートカットがとてもよく似合っている。目付きは少し悪いがおっぱいはでっかい。
どうやら取ろうとしているのは宮沢賢治の銀河鉄道の夜である。なかなか渋いチョイスだ、といけない。脇をみないと。
精一杯背伸びをしながら腕を伸ばし、本を取ろうとする。
純白の脇と僕は今まさに邂逅する。窓の外に悠々とそびえる入道雲。お天道様に顔を向けくしゃっと笑うひまわり。
どれもが美しい。
もしエウドクソスが黄金比を発見していなければ、僕が発見していただろう。
古代ギリシャ人よ、変態に追いつかれた気分はさぞ悔しいだろう。待っていろすぐに追い抜いてやる。
「ねぇ。」
声がした。若い女の声。森の動物達しか知らない湖に似た透明感のある声。
「私の脇、見てたでしょ。」
彼女は僕を見ていた。今にもムチで僕を叩き、蝋燭火あぶりの刑をしそうな女王様の目で見ていた。
終わった。僕の高校生は今終わったのだ。
この噂は明日には学校中に広まるのだろう。SNSとは怖いものだ。僕は図書室に出没する妖怪の様な扱いを受けるのだろう。妖怪脇覗き。どうも妖怪脇覗きです。
まずは謝ろう。まだ何とかなるかも知れない。去年亡くなった僕の婆ちゃんが悪い事したら謝れと言っていた。まだ生きているが。
謝ろうとしたその時。
彼女が、笑った。
僕の思考は完全に混乱に陥った。何故笑った?何故だ何故だ何故だ?同時に頭をフル回転させる。おねしょしてビショビショになったパンツを隠す場所探す時以来の思考の速さだ。
そして僕は一つの結論に辿り着いた。
彼女もまた、変態だ。
この女。全て知っていたのだ。僕が見ていると知っててわざと高い所の本を取り、脇を見せたのだ。
僕は謎の自信を手に入れてしまった。もはや行けるところまで行ってやる、考える前に、本能は僕の体を乗っ取ってしまっていた。
「脇、舐めさせてください。」
やってしまった。僕は多分死んだほうがいい人間だ。
世界死んだほうがいいランキングを作ったら間違いなく上位に食い込むだろう。
虚ろな目をしながら彼女を見た。
彼女は頬を赤らめながらまだ笑っていた。
嘘だろ。
ゆっくり腕を上げていく。
嘘だよ。
脇が今まさに見える。
マジかよ。
宇宙が広がった。
銀河鉄道。出発進行。
顔をゆっくりと近づける。
あぁ、アポロ11号の船長アームストロングは月面に降り立つ時、こんな気持ちだったのか。
素晴らしい。シャンプーの匂いがする。これはメリットのだ。
今まさに着陸しようとしたその時、窓の外にキュウベイがいた。
「僕と契約して魔法少女になっておくれよ。」
「何だって!でも魔女になっちゃうじゃない!」
「爆発するわ!危ない!」
人類は滅亡した。