6話 警戒心■
「着いたぞ」
あれから特に会話もなく代わり映えのしない道を暫く歩き続けてある大きな門?の前に辿り着いた。ほぼ朽ち落ちてしまっているため元の景色がどうだったのかは検討がつかない
「ここは?」
「元は我の国とその外部を隔てていた場所だ。この辺りから強い魔力の反応がある。」
「なるほど…?」
ぐるりと周りを見渡しても魔物の気配はない
ぽつんと門だけ残っているのがとても異質に見えて不思議な感じがする。
近寄り門に触れようとすると突然地面がもこ、と動いた
「何!!!?」
「まぁ、見ていろ。」
地面はぐにぐにと伸び大きな魔物の形を形成し、声を上げた。
「ゴアアアアア!!!!!」
そして門を飛び越え私達の目の前に立ち塞がった。こちらを睨みつけ威嚇をしている
蛇とドラゴンを足して2で割ったような見た目をしていて
大きさは10メートルくらい?サイズ的にも中ボス程度だ
「門番のようなものだ。我が生み出したがすでに我の手を離れ、この世のものとなっている。
ある程度の魔力を保有してる為、取り入れれば少しは糧にはなるだろう。」
「はぁ……」
「近づいて触れれば魔力を奪えるが……動きを止めなくてはならない。今の我には容易ではないだろう。」
「人間、貴様はあれを倒せるか?」
……この目は私を試そうとしているんだ
私の実力を見定め今後どうするのか決めるつもりなんだろう。
「もちろん」
「随分自信があるようだな」
「ふふ、どれだけこのゲームをプレイした事か……
戦闘なら得意だよ!任せて!」
むん、と胸を張るとげーむ……?とルネン君が首を傾げていた。
怖くて距離感が掴めなくて警戒心がとても強いルネン君
もしこれで良い所をみせたら少しは仲良くなれるかもしれない
そんな希望を胸にルネン君の目線に合わせるよう屈んで
覗き込むと宝石のように紅く、綺麗な瞳が揺らいだ
「私、ルネン君とお友達になりたい」
「…………………………は?」
「あれを倒せたら少しは仲良くしてくれると嬉しい!です」
「……何だそれは。交渉のつもりか?」
「違うよ。私の願望!」
痺れを切らして襲いかかって来そうだった魔物を見て慌てて駆け出す。
ルネン君があれの攻撃を受けたらひとたまりもないだろう
「な……おい!待て。」
「危ないから離れて見ててね!」
ルネン君に手を振り眼前に佇む魔物を睨む
揺さぶられるような大きな咆哮を真正面からまともに受けて身体が震えた。
…けどその程度だこの位の大きな敵なら何度も倒してきた。
「せーーーの!!!」
勢いのまま尻尾に飛びかかり渾身の力で武器を振り下ろすと
ぼと、と簡単に切れてしまった
ゲームだったらダメージ演出程度で済んでたのが途端にリアル
血も出てるし下手すれば年齢制限ものだ
だが、もうここは私にとってただのゲームの世界ではない
紛うことなき現実の世界へとなってしまったのだ
この世界での死の扱いはどうかはわからないけど
まともに攻撃を受けたらきっと痛いしこの敵のように
肉体の一部が切り落とされてしまうこともあるかもしれない
油断は禁物だ。それに私はまだこの肉体に慣れていない
「ギィ……アアアア!!!」
尻尾を落とされた痛みで敵がじたばたと苦しんでいる
大きな手をこちらに振り下ろし押しつぶそうとしてくるのをさっと躱す
戦闘の動作はするすると出てくるようになったので
やはりこの身体がそう記憶しているのだろう
それにしてもこう苦しんでる姿を見るとちょっと心に来るものがある。
できるだけ早く倒してあげないと……
地面を蹴り上げ高く飛び魔物の眼前に接近する
武器を大きく構え、振り下ろそうとすると……
「ーーーーーー!!!!」
魔物は大きな声を上げて口元に光の玉を作り出しビームを放った
寸でのところで防御姿勢を取った為、まともに受けることなくほぼノーダメで済んだ
「あだっ!」
……が頬を掠めた。ヒリヒリとした痛みが残り痛覚が健在で更に現実味が増して冷や汗が出る
地面はドロっと溶けて相当な高温であることが伺える
「ーーーーー!!!!」
「連発できるんだ……」
2発、3発と放たれるそれを交わす
焼け焦げたような臭いが当たりに漂いあまりの熱さに汗が吹き出す
魔物が4発目を放った時、それがまるで的外れな位置へと
放たれた為嫌な予感がして後ろを振り向くと……
遠くで倒れている小さな影が見えた
「ルネン君!!!」
まさか、攻撃が当たったのだろうか。もしまともに食らってしまったのだとしたら……
急いで頭に付けていた装備を起動させる
私の装備のひとつに飛行可能にすることのできる魔法剣士専用の装備があり、これをつけると走る2倍の速度で進むことが出来るのだ。
ツインテのように頭に装着していたそれを起動すると先端からジェットが勢いよく噴出し、ルネン君の元へと飛び出す
後方から魔物が追いかけてくる音がするので急がないと
「ルネン君!!」
「……油断した。」
側に寄って確認すると傷が深く焼けただれているようだった
回復剤でなんとかなるのだろうか……いや魔力回復剤が受け付け
ないようだったからこれもだめな気がする
「この程度の攻撃、受けきれぬ程弱体化しているとはな……
俺の身を案じて居るのだとしたら不要だ。それよりも貴様は―…」
「いいから」
拒絶しようとしたルネン君の手を掴み半ば強引に回復魔法をかける
すると跡も残らず綺麗に消えてくれた。
「よかった……」
安堵した瞬間、眩い光が周りを包む。
必死ですぐ後ろに来てたのに気づかなかった
横にとび退けば攻撃は躱すことは出来るでもそうするとルネン君に当たってしまう。
抱えて飛び退くにはラグがおこる……だとしたら。
「……!おい!」
ルネン君を守るように覆いかぶさる
まともにくらったらどうなるかわからないけどこうするしかない
「あ”ーーーー!!!!」
強い衝撃が背中に走る。引くほど痛い背中無くなった?
……よかった。ある。
涙目になりながら武器を抜きこれでもかという力で
目前に迫っていた敵の首を目掛けて投げつけた
「おらーーー!!!」
「ギッ……!」
深々と刺さり敵が身じろぎした瞬間、武器を掴み横に切り裂くとごとんと首が落ちた
それと同時に私も崩れ落ちた。HPにしたら10分の1程度しか削れてないがこんなに痛いのか。
装備自体はほぼ無傷に近いけど正直挫けそう。今後はなるべく攻撃を受けないようにしよう
「おい…!」
心配してくれたのかルネン君が駆け寄ってきてくれた
かなり嬉しい……がそれよりも先に……
「ルネン君、魔力、魔力を……敵が消えちゃう。早く……」
痛みで声が途切れながらも肉体が消滅しかけている敵を指差す。
触れる前に消滅してしまったら魔力を奪うとやらができないだろう
「あ、あぁ……」
その言葉を聞いてルネン君は躊躇いながらも敵の元へ向かいそっと触れてみせた
するとそれは何やら禍々しい煙に変化しルネン君の肉体を包み込み、ざぁ、と消えた
「怪我は」
「大丈夫。痛いだけ、慣れればなんとかなるよ」
「……痛みに慣れる必要などない。見せてみろ」
有無を言わせぬ態度に大人しく背中を向けるとほわ……と暖かい光が私を包み、痛みが引いた。
回復魔法をかけてくれたみたいだ
「ありがとう。それで魔力はどう?」
「まだまだだな。こんなものでは足りない
あと数十……数百程取り入れればなんとかという感じだな」
「すうひゃ……」
おばけ……こんな小さな体のどこにそんな魔力が詰まるというんだ。キャパとかないのだろうか
「でもそんなに数居ないよ?」
「いや。暫くすれば……」
ルネン君が私の後ろを指差すともぞもぞと白紙の地面が盛り上がり、先程と同じ魔物が再び出現した。
「どう言う理屈かは知らぬが、世界が崩壊してなお特定の場所で魔物は湧き出しているようだな」
「あぁ〜…無限湧きするのか〜……」
そういえば特定マップに中ボスとザコ敵が無限湧きする場所があった。格好のレベリングスポットだったんだけど、あまりにも個体が強すぎるため初心者向けではない中堅向き位の場所。
周囲がほぼ壊滅していたので気づかなかったな
「頼めるか?」
どことなく優しい顔を見せたルネン君にときめきそうになる。可愛い……
一体どれだけ倒せばルネン君が満足するのかはわからないけどやるだけやってみよう。
そしてあわよくばお友達になろう
「まかせて」
満面の笑みで返事をするとルネン君はなんだか複雑そうな顔をしていた
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「わは、ははは!」
あれから結構な時間が経ったと思うが倒し始めて100を超えたあたりから数も数えてない。そして笑いが止まらない
いつもは画面越しで無心で周回してたものを自分の肉体でこうやって倒してるとランナーズハイみたいな感覚になるんだね
それでも怖いのが疲労感がほぼない事だ。この肉体は体力おばけなのかもしれない。
一体倒すのにもう数分もかからなくなってきた。うに、と敵が湧いた瞬間に力ずくで武器を振り下ろす。
「ギャッ……」
もはや豆腐のように切れる…最初の戦闘では手こずってたけど私の精神とこの肉体がやっとフイットしたんだろうか。多分。適当だけど
「もういい」
頭がぐるぐるしてきたな、という頃合でルネン君から制止の声が入った。
「屈め」
「?」
指でちょいちょいと促されてルネン君の前でしゃがむと羽織っていたマントで私の顔を拭い出した
「おぶ、ぶ、何……んぐ……」
「見るに堪えない程汚れている」
言われて自分の服を見てみると有り得ない程血が付いていた。返り血……?なんだろうかでも普段ゲームしてて自キャラがこうなる事は無かったので意識してなかった
「……一先ず4割程度の魔力は元に戻った
本調子とは決して言えぬがまぁ良い。ご苦労だった」
「それは……ありがとうございます…?」
ルネン君がこうして見せる王様ムーブを前にすると思わずこちらまで畏まってしまう。
それにしてもこれで4割か……底知れない
「あれ程動き続けて疲労は無いのか?」
「それは全然。寧ろ身体の動かし方のコツを掴んだと言うか…すごく調子がいいよ」
「そうか」
「…………よく、わからないな」
「え?」
「独り言だ」
そう言うと何か考え事をするようにす、と後ろを向いてしまった
もにょもにょととても小さな声量だったので上手く聞き取れなかったが悪口ではないと願うのみだ