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第4話 出会い

「えーん」


ゲートから駆け出してもう30分は経つ。

周りの景色は変わらずほぼ白紙のようで

所々に元の背景がぽつらぽつら残っているのみ

未だ敵ともNPCともプレイヤーとも出会ってない

せめて敵の1体や2体湧き出してくれるものなら安心するものの……


「こんなことってある〜?」


意気込んで飛び出してものの綿毛のようにふわふわな

私のメンタルがもはや揺らぎ始めている。

慣れ親しんだ筈のゲームがまるで知らない何かに変わってしまったみたいだ

試しに魔法か何かを使ってみたら何か変わるんじゃないか

そう思い立ってコマンドを入力しようとして固まる


「コントローラーないじゃん」


え、どうすればいいんだろうコントローラーがないと

魔法が使えない。ゲームの時はコントローラーで

簡単な操作をするだけで良かったけどこの身体だとどうすればいいの?

早いところ何とかしないともし仮に魔物でも現れたらかなり危ない


そんな不安を他所に自らの背後で轟音が鳴り響いた

嫌な予感がする。ていうかタイミングが良すぎる。

ゆっくりと後ろを振り向くと案の定。敵が2体


「今じゃない!!今ではない!!」

「ガオオオ!!!!」


私の絶叫に答えるように敵が飛びかかってきた

普段の私ならこんな敵なんでもないが今の私は

初心者並に何もわからない

あれだけタンカを切っておいてこれだもん。


「まてまて!まって!!」


逃げるように飛び退き剣を構える

落ち着け私。出来るはずだ思い出せ

パニック寸前の頭を整理するように深呼吸をした

よくよく考えたらローダン君と話してる時

無意識でアイテム欄を開けていた

だとすればあの時と同じ要領で頭に浮かべれば…


目を瞑りコマンドを頭に浮かべる。

…すると自分の視界に魔法が浮かび上がり一気に身体が軽くなった


「お、おおおお!!!りゃああ!!!!」


剣をまばゆい光が包み込み勢いのままに振りおろすと

斬撃が炎に変質し敵を跡形もなく消し去った。


「…おお…」


こうやって使うのか。慣れるまで時間は掛かりそうだけど

なんとかなりそう。なにやら敵の残り後?がキラキラと輝いていたので

近づいてみるとアイテムが落ちていた。


「鍵?」


見慣れないそれを掲げるように持ち上げると

視線の先に殆ど崩れかけている建物が見えた

この魔物はあそこから来たのだろうか


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


建物の中に入ってみると外観とは打って変わってとても豪華で綺麗な内装をしていた

かなり広々としていて元はお城だったんだと思う。


「う~ん、こんな場所あったっけ…?何かのイベで使ってたのかな」


全く思い出せない。これだけ凄い場所なら覚えていそうなものだけど…


進めば進むほど内部のあちらこちらが崩壊している。

どうやら綺麗だったのは玄関口だけだったようだ


誘い込まれるように奥へ奥へと進むと

大きな扉の前に行き当たった。かなり厳重に鍵がかかっている。


「さっきのをここに使えばいいのかな?」


先程入手した鍵を差し込むとぼろぼろとそれは崩れ落ち

ひとりでに扉が開いた。

中へと進むと長い廊下があり一番奥にとても豪華な玉座が

そこには幼い男の子が座っていた。


「こんにちは~…?」


近づいて声をかけてもまるで反応がない眠っているみたいだ。

黒髪ショートの綺麗な顔立ちの男の子。お人形さんみたいとは

この事か。つついて起こしてみようと肩に触れると一瞬静電気の

ような痛みがバチンと指先に走った


「…………。」


それに反応してか男の子はゆっくりと目を覚ました

宝石のような綺麗な瞳に見とれてしまう。可愛い


「……何故。ここに居る。」

「あ、ごめんね勝手に…私はー…」

「誰もここに入って来れぬように結界を張った筈だ」


明らかに敵意をむき出しに私を睨めつけてくる幼い男の子に

思わず怯えてしまう。情けない私もういい大人なのに


「その」

「…………。」

「悪さをする気はありません。」

「目的は」

「え。な、いです……。迷い込んだ感じに近いから…

 不快でしたらすぐ消えますごめんなさい」

「迷い込んだぁ…?」


ぎろりと鋭い視線で再び見つめられ固まる

なんでそんな人を殺すような視線を放てるんだ。怖いよ


「…ふ。それは気の毒にな」


何も言わず固まる私を見て何かを諦めたように

その子は視線をそらし少しだけ柔らかい表情に変わった


「どういう意味でしょうか」

「この世界が崩壊しているのは知っているか。」

「それは、はい。」

「なら話が早いこの城もその崩壊に巻き込まれている

 …様々な手を尽くし魔力を使い切ったが崩壊を止めることは

 できなかった。足止め程度はできたがそれまでだ」

「はぁ…」

「ここはまもなく崩壊する。迷い込んだ貴様もその崩壊に

 巻き込まれやがて消滅するだろう。運のないやつだ」

「え?お城から逃げ出せばいいんじゃ…」

「それはできない。我はここから出ることができない。」

「…NPCだから?」

「N…?なんだそれは」


あれ、ローダン君は自分のことをそう言っていたからこの子も

そうだと思ったんだけど違ったのだろうか。それとも自覚がないとか?


NPCはプレイヤーが操作していないキャラの事で、ゲームの世界

を成り立たせるための要素の一つ。とかそんな感じだった気がする。

この子はきっと行動範囲をこのお城の中のみに設定されたんだろう

だから逃げることはできないしこのままだと多分消えてしまう。


「出たいとは思わないの?」

「もう、諦めた」

「それでいいの?」

「抗ったが無理だった。もう俺に魔力は残っていない…

この姿では以前の力も振るうことは出来ない。

 だから諦めたのだ…最期の時くらい穏やかに死にたい。」


そう言い放った顔は驚く程に無表情で、なんだかこちらが悲しくなってしまった

受け入れて自分の死をただ待つことしか出来ないなんて


お節介だとしても目の前のこの子を見捨てることが

出来なくなってしまいその子の小さな手を握る。

またぴりぴりと静電気のような痛みが手に広がる。


「……!何をする、無礼者」

「私、緋衣って言います。貴方のお名前は?」

「………………ルネンだ」

「そっか、ルネン君って言うんだね。」


「ねぇルネン君、一緒にここから出よう。

外から来た私となら出られるかもしれない」

「……そんな事は」

「やってみないとわからないよ」


促すように微笑みかけるとルネン君は少しだけ

怪訝な顔をして「試すだけだ」とゆっくりと玉座から

降りてくれた。私はその手を引いて扉へと足を進める。

ピリピリとした痛みが強さを増して今はバリバリと

感電してる?と誤認する位の痛みが広がっていて

ルネン君は大丈夫かと視線を送る


「なんだ。」

「手、痛くない?」

「……痛みなどない。屈辱ではあるが」

「そっか、なら良かった」

「良くはない」


つん、と視線を逸らして少し不機嫌そうな

顔を浮かべたけど手は握られたままだ

どうやらこの痛みを感じているのは私だけのようだった。

耐え難いほどの痛みだけど今この手は離してはいけない気がする


「貴様はなんともないのか」

「え?」

「外部の者が我に干渉すると呪いが発動する」

「あ、これ呪いなんだ。手が痺れる程度だから平気だよ」

「………………そうか」


視線をそらしたままこちらを気遣ってくれた

ルネン君を嬉しい気持ちで眺めながら歩みを

進めているうちに扉の前まで辿り着いた

ルネン君は少し緊張したように身体を強ばらせている


「……先へ進んで、この身が消滅するような事態にはならぬか」

「大丈夫だと思うよ。私、外から来たし」

「外部から来たであろう貴様はそうだろうが

内に居た我はそうとは限らぬ。

今の我はそこらの魔物より弱く魔力もない」

「魔力か……」


そういえば魔力(MP)譲渡の魔法があった筈だ

NPC(多分)であるルネン君にもそれは通じるんだろうか


物は試しだとコマンドを頭に浮かべる

ほわっと自分の身体から優しい光が浮かび

その光がルネン君の身体を包み込み、すぅ、と消えた

ルネン君は目を丸くしてこちらを見つめている

そんな顔できたのか。可愛い


「今のは」

「私の魔力を少しルネン君に分けた……つもりだけど上手くいってるかな」

「あ、あぁ…確かに先程より僅かに力を取り戻した気概はあるが

こんな事をして貴様は平気なのか」

「私?私はなんとも…」

「魔力譲渡は自らの身を削るようなもの

こんな事をしては無事ではすまぬだろう」


そんな事言われても自室で寝て起きたら魔力は

全開するし魔力回復剤とかあるからな……

この様子だとルネン君は勝手が違うみたいだけど


「優しいねぇ」


心配してくれている素振りに微笑ましくなってルネン君の頭を撫でる。

よく見ると角?が生えてる。不思議

何も言わずにされるがままのルネン君を覗き込むと

わなわなと身体を震わせていた。


「……我が本来の力があれば貴様を八つ裂きにしている……」

「わ、ごめん嫌だったのか。

所で……もう大丈夫?」

「?」

「先に進めそう?」


この先へ進む事に不安を抱いてる様子のルネン君に確認する。

さっきまでは顔が強ばっていたけど今は少し和らいでいた


「あぁ」


覚悟を決めたような顔のルネン君を見て扉に手をかける

……とばちばちとした痛みが全身に駆け巡り思わず

手を離しそうになる。

状態異常耐性のある装備を身につけているものの

これ程までの激痛。呪いとやらは恐ろしい。


やっとの思いで扉を押し開き外に飛び出すと

バチン!と一際大きな衝撃を最後に痛みは引いていった。

あれ?

不思議に思ってルネン君を見ても手は繋がれた

ままで離したから痛みが引いたという訳でもない。


干渉することで呪いが発動すると言っていたので

ずっと続くものだと思ったけどそういうものでも

なかったみたいだ。一安心

何事もなく外に出ることが出来た。


「何も無いな。」

「……うん」

「以前は広々とした大地が広がって居たのだ

人々は平和に暮らし、魔物達も……」


ルネン君は思い出に浸るように辺りを見回して

後ろを振り向き、お城を見上げた


「随分見窄らしくなってしまったものだ

この城も直に崩壊するのだろう。


未練がないと言えば嘘になる

この身が消えるのは恐ろしかったが

これが消えれば我の…俺の居場所は終ぞ失われる」


「あ……」


「いいや…我の王国は既に失われて居たのだな

必死に抗っていたが、所詮井の中の蛙だったという事だ」


憶測だが以前はこの空間はかなり発展していたのだろう。

ルネン君はきっと王様の役割を担っていて、この地を統べていたのだ。

それが今やほぼ全てが崩壊し、一面が何も無い白紙の世界。

そして自分が居たお城までもが崩壊しようとしている。

私と出会わなければルネン君はこのまま崩壊に

巻き込まれ、外の現状を知る事もなく消えていただろう。

どちらが良かったのかなんて、私には決めることが出来ない


何れにせよ私のエゴでルネン君を外へと連出してしまった。

このままはい、さようなら元気でね。と

見捨てる無責任な事はしたくない。自分のできる

限りの力を持って責任は取るつもりだ


「ルネン君。一緒に行こう」


視線を合わせるようにかがみ込みどこか虚ろな瞳をした

ルネン君を抱き上げる


「な……!」

「こんな場所に一人きりは寂しいよ

お姉さんと一緒に行こう!」

「お姉さん……?お前がか?」

「そこに引っかかるの???」


抵抗するかと思われたルネン君は意外にも

大人しく私の腕の中に収まってくれている

少し不安な顔で私を見つめていたルネン君はやがて

身体の力を抜いて微笑んだ


「……良いだろう。俺を外へ連れ出したのは貴様だ

責任を取れ」


そっけない態度をとるものの素直に

こちらに身を預けてくれている様子に頬が綻ぶ

現実世界での知人の子供を思い出すなぁ……たしか

これくらいだったっけ。


小さな身体を抱き抱えながらお城を見上げると

まるで役目を果たしたかのように消えていった


それを見届けて私達はゆっくりとその場を後にする。

惜しむような目線で城跡を見つめるルネン君に

私は声をかけることはできなかった



ルネン君の一人称は

王としての発言の時は我

自らの私情が強く混ざってる時は俺

みたいな感じでなんとなく分けてます。

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