英雄と女神
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気がつけば、不気味なところにいた。
そこは明るさと暗さ、落ち着きと不安、色々なものを感じる明らかに先ほどまでいた世界とは違う場所だった。
「ようこそ、オルガさん」
「──っ!?」
突然、俺は自分の名前を呼ばれ、声の主を探した。詳しくいえば、探さずとも見つかった。
その声の主はいつからだろう。
いや、ずっと目の前にいたのかもしれない。
自分の正面にある椅子に腰を下ろし、こちらを見つめていた。
声の主は気品を感じさせる淑やかな顔立ちの少女に見えた。
うん。俺好みだ。
「えっと、ここはどこであんたは誰· · ·って聞いてもいいか?」
「ええ、もちろんです。
ここは· · ·死後、死者が訪れる神の領域です。簡単に言うと死後の世界です」
「なるほど、わからん」
死後の世界?そんなものがあるのか?
たしかに俺はさっき死んだけどなぁ· · ·。
それに神の領域ってなんだよ。
訝しむ俺の事をみて申し訳なさそうに微笑みながら少女は続いた。
「そして私は一応、幸福の女神と呼ばれるものです。名は──シノアと申します」
「なるほど、わからん」
やっぱりわかんねぇ。
でもシノアという名前は聞き覚えがある。というか知らない人なんているのかというレベルだ。
「んじゃあんた、あの『貧乳で有名な女神』か?」
「貧乳じゃありませんから!!」
そう言いながら少女は胸を突き出すように否定してくる。
おお。おお!· · ·いい!!
今の体制は良かった。
たしかに貧乳じゃないけどあるとも言えない、そんなレベルだな。
俺のストライクゾーンにド直球。
「· · ·それはともかく、今の話を信じてはもらえますか?」
一度息を整え女神シノアを名乗る少女は俺に問う。
「まぁ· · ·冷静になってみると確かにさっき俺死んだし· · ·一応信じますけど」
「ありがとうございます。あと、先ほどではなく、あなたが死んでから下界の時間の流れではもう一年が過ぎようとしています」
「えっ、そうなんですか?」
「はい。今の今まで私のほうもいろいろと忙しくて· · ·すみません」
「あ、全然いいですよ」
相手が最も有名な神ということで俺は敬語に切り替える。しかし、一年か。
一年の間に何が起こったんだろうか。
そう思い、俺は女神シノア様に聞いてみる。
「あなた方のパーティーのおかげで魔王は世界から消えました。そしてあなた方は今では『英雄』とされています」
英雄。それは非凡なことを成し遂げたものに送られる人々に認められた存在だ。
俺は昔から英雄に憧れていた。
死にはしたものの、昔からの夢の一つが叶い、嬉しい。
あ。そうだ。
「· · ·あ、アイツら· · ·他の奴らは今どうなってるんですか?」
俺は仲間のことを思い浮かべる。特に、あの聖女と謳われた奴のことを。
「· · ·」
「あの、どうしたんですか?」
「すみません、その質問には私は答えることができないです」
「· · ·?」
なぜ?とは思うも口には出さない。
女神にも女神の都合があるんだろうと紳士的な俺は察する。おれは空気が読める男だからな。
「私の口からは言えません· · ·ですが、あなたが自ら知ることは出来ます!」
「· · ·は?」
間の抜けた声が漏れた。
俺はシノア様が何を言ってるのかわからない。意図がわからない。
「· · ·すなわち、『転生』です」
「転生?」
「はい。偉大な功績を残したあなたに一度だけ特別に転生が許されています」
「· · ·なんでですか?」
当然の疑問だろう。たしかにそれなりに功績を残したつもりだ。だが、魔王がいない今、俺のような戦闘系の人間を転生させるなんてことをいくら神でもご褒美として提供するのだろうか。
「もしかして· · ·」
「· · ·ええ、そのもしかしてです。最凶の存在が去った下界には早くも不穏な予兆が見られています」
「· · ·なるほど。それで表向きは褒美として俺にまた戦って欲しいと?」
「すみません、その通りです」
やっぱり。
でもおかしい。俺がいなくてもアイツらがいれば大体のことは上手くいくはず。
なのに俺を転生させるなんてことは今の下界は相当ヤバいってことなんじゃ· · ·。
· · ·魔王なんて比べ物にならないような。
でもそんな奴がなぁ。
いるんだろうか。
いやでもアイツらがいればなぁ。俺はもうしんどいことしたくないしなー。
う〜ん、と唸る俺にシノア様は上目遣いで手を合わせ、
「· · ·ダメ、ですか?」
上目遣いのお願い。
答えはもう決まってる。
「ダメなわけないじゃないですか」
· · ·我ながら、チョロい。