英雄の死
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「お、おい!死ぬな· · ·!」
屈強な体に似合わず、顔中を涙でぐしゃぐしゃにした一人の男が俺に向かってそう叫ぶ。
男は俺の腹部にその手を添え、そこから溢れ出す、俺の血を必死に止めようとしている。
その手は完全に赤黒く染まり、男と俺に『死』というものを感じさせる。
だが、男は必死に足掻き、少しでも俺の命をそこに押しとどめようとする。
──しかし、それは意味の無いことだ。
明らかに、出血多量で俺は死ぬ。
俺はもう、それ自体はわかっているから、死を受け止めているつもりだ。
「何で· · ·なんで俺を庇ったんだよ· · ·!」
男はどうしようもない気持ちを言葉にする。
「· · ·はぁ· · ·しょうが· · · · · ·ねぇだろ· · ·?体が勝手に· · ·動いちまったんだよ」
「いっつもだ。お前は· · ·普段は· · ·ふざけてばっかりで、エロくて、頭がおかしいだけだってのに· · ·どうして、どうして· · ·」
俺は必死になりながら僅かな言葉を絞り出す。すると男は俺にこの状況で喧嘩を売ってきやがった。文句の一つでも言ってやろうと思ったが、その前に男の口が言葉を発する。
「───どうして、いざという時はいつもかっけぇことしてんだよ· · ·」
男は俺と俺の奥に転がっている死体を交互に見る。俺もその視線を追って視界の隅にそれを入れる。
そこにあった死体は、俺たち2人で倒した魔王と言われる存在だった。
いつも通りのコンビネーションでギリギリの戦いながらも最凶の存在を倒した。
だが。
魔王は最後の力、残された命のかけらを振り絞って、壊滅級の一撃を放った。それは勝利を喜ぶ男──ガイアス ・ ハワードに目掛けて一直線に──。
それを見た俺は、気づいたら動き、気づいたら倒れていた。
そう。庇ったのだった。
「· · ·あーあ· · ·もっと· · ·女のケツを追い回してたかったな· · ·」
「バカ言うなよ· · ·お前は、死な、ない· · ·!」
「バカはお前だよ· · ·バーカ· · · 。俺は、死ぬんだっての」
「· · ·っ!」
未だに受け入れようとしないガイアスに現実を突きつける。
だが、これは仕方が無いことだ。
俺の死を受け入れず、廃人にはなって欲しくないしな。
今この場にいない仲間たちのことを頭の中にうかべる。
このことを知ったら、アイツらはどう思うんだろうか。
優しい聖女も、頭のおかしい魔導師も、体だけでなく頭の中までで硬かった戦士も、俺の死を心から悲しんでくれるのだろうか。
そう思いながらガイアスの肩に手を伸ばす。
「多くは· · ·言わねぇ。· · ·でも· · ·これだけは聞き入れてくれ· · ·」
一瞬、疑問符をうかべるような顔をしたが、
最後の頼みを聞いてくれるらしい。不安な感情を飛ばし、真面目な、いつもの、頼りになる男の顔になった。
「· · ·ああ· · ·なんだ?」
「あいつを──ミーシャを· · ·頼んだ· · ·」
「· · ·!!· · ·ああ、アイツはこれからも俺たちがついてるさ· · ·」
血を吐くほどの力を振り絞り、まぁ、実際に吐血したが、俺は本当の心残りをガイアスに伝えた。
「· · ·サン· · ·キュー· · · · · ·な· · ·」
感謝の一言。
それを残し、俺───オルガ ・ クラネルは· · · 死んだ。
2話は18:00頃に投稿する予定ですのでよろしくお願いします。