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村娘が開拓してもいいじゃない!  作者: 紀伊国屋虎辰
3/4

きっと彼女のせいだ:2

大変お待たせしました。前回からの続きになります。今回もよろしくお願いします。

「今回はお義母かあさんも同行します。まさかまだお義父とうさんに話してなかったんですか?」


「ハンナも辺境に? リアムと帝都に行くのではないのか?」


 本当に初耳だったようで、クレイグが驚いた様子で声を上げる。


「誰かが伝えていると思ったのだけど、行き違いがあったようだわ。今回は私もついて行きます」


 ハンナも驚いた様子でそう告げた。皆それぞれ専門分野の手配をしていたためか、他にだれかがやっているだろうとの思い込みが生まれていたのだろう。特に今回は、最上位の騎士であるヘリオスがリアムの帝都参勤への手続きに追われていたのも大きかった。そしてクレイグとテオドリックの反目がさらに事態をややこしくしていた。


「傭兵も多めに雇いましたし、安全面は確保できていると思います。水脈を探すにははお義母(かあ)さんの人魚族(ネレイデス)の血が有効です」


「ちょっとフィー。ご当主様だけじゃなくて、ハンナ伯母様まで行くなんて聞いてないですよ」


 エレノアも知らされていなかったようで、人前にも関わらずフィオナを愛称で呼んでしまう。それくらい辺境に向かうというのは危険の伴う行為だ。


「何も水源確保のためだけに来てもらうわけではなくて、今回はテオドリックさんの村とマケドニアから来るもう一つの村を併せて開拓村を作ります。法に関してはライアン男爵の意見は尊重されるでしょう。でも、それ以外のいざこざに関しては?」


 帝国は地域によって、慣習も常識も違う。特にテオドリックの出身部族であるゴート族は、世界の果て(オケアーノス)を超えて別の世界からやってきた【界渡り】の末裔なのだ。一筋縄ではいくまい。


「そういうことね。まだ若いフィーでは解決できない問題でも、伯母(おば)様なら解決できると」


 エレノアも村長の妻としてのハンナの働きぶりは知っている。どれだけ小さくとも所領を持つ貴族の伴侶は、軍役の負担や代官として政務を行う当主の代わりに家中をまとめ、(いさか)いを仲裁し祭事を運営しなければならない。今回のように複数の騎士と多くの兵を雇う国家的事業ではフィオナが彼女以上に適任というなら、エレノアが果たすのは財政面での支援だけだ。


「それはそうかもしれませんが、私の村……ゴート族は男女とも激しい気性のものも多い。奥方様もそれでよいのですか?」


 テオドリックからみても、まだ若い娘にも見えるハンナがフィオナ達の言うように村同士の利害対立という難題を解消できるかは、はなはだ疑問だ。さっきまでのクレイグに掴みかからんばかりの勢いよりも心配の方が勝ってしまう。


「構わないわ。そうよね、クレイグ?」


「そこに関しては、自分を信じられなくても妻は信じてやって欲しい」


「そういうことであれば俺からも推挙させてもらう。帝国貴族の妻などというものは伊達や酔狂では務まらないのだからな」


 尚も心配そうなテオドリックにヘリオスがそう伝える。


「それに安心してくださいテオドリック師匠。母さんはフィオナを育てた母さんですよ。一度決めたらテコでも動かない人です」


 リアムとフィオナのことは、テオドリックはよく知っている。その二人やヘリオスがいうのであれば、ライアン夫人の評価は間違いないのだろう。


「そうなのか?」


もう一度、最後の念押しにクレイグに問う。


「ああ、この村に嫁に来るときも一人でミケーネからやってきたくらいだからな。フィオナが頑固な性格なのものきっと彼女のせいだ」


「そうか……だから止めないのだな」


 クレイグとリアムの合間でニコニコと笑っている可憐にも見える女性が、あのフィオナを育てたのだ。それを侮るような真似はテオドリックにはできなかった。


「それでは問題が片付いたということで話を進めさせてもらいますが、村の運営資金に関しては、ミダス商会が半分を負担。残りを私どもライアン男爵家が代官として帝国よりの資金で援助いたします」


「それで問題ございません。足りない分に関してはこちらで何とかいたしましょう」


 帝国の国家事業である辺境の開拓の予算を半分も負担することはミダスにとっても安い出費ではない。

それでも開拓地には良質な鉱脈の存在が期待でき、その管理運営をミダス商会が一手に握ることができれば、注ぎ込んだ資本以上の利益を生むことになる。

 それに容易くよそ者を信用しないゴート族を相手にするには、自分たちの利益は自分たちで確保しているという安心感が必要だ。領主になるテオドリックの家が相応の負担をすることは必然といえた。


「それじゃあ、ヘリオス。リアムのことは頼んだわよ」


「任せておいてくれ、そちらもメディのことを頼む」


「そこは安心して。それじゃあ、リアム半年後に……」


「ああ。フィオナもどうか無事で。父さん。頼みます」


 リアムの言葉にクレイグが肯く。遠く離れてようとも家族の絆は失われない。

翌日、エレノアを留守居に残して、それぞれの任地へ向けて出立することとなった。



いよいよ次回から開拓村での生活が始まります。今回は開拓村、帝都、雪割り谷と三つの場所を舞台に物語が進みます。できる限りお待たせしないようにお届けできればと思います。

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