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村娘が開拓してもいいじゃない!  作者: 紀伊国屋虎辰
2/4

きっと彼女のせいだ:1

「だから水源の側に集落を作らなければ、定住などできない!」


「シニス。それはお前の言うとおりだが、水源地の植生をみれば泥炭層の可能性が高い。定住には向かない上に延焼の危険もある」


「だが、春までに水が涸れたらどうする? また見捨てるのか! あの時みたいに!」


 本陣の大きなテーブルを挟んで、クレイグとテオドリックは激しく言い争っている。

開拓において最初の居住地を決めるのは、とても大事なことだ。


 特に北部辺境は大河が少なく、水場の確保は大きな課題だ。


「お前の紋章があれば、俺達の村が無くなることも無かった!」


「だから今回は自分も紋章と紋章官を連れて行く! あんな思いは私だって二度とご免だ!」


「気にいらないのは、お前のその態度だ。いつでも自分ばかり賢人ぶりやがって」


 普段の紳士然とした態度からは想像もつかない勢いで、テオドリックはクレイグの胸倉を掴み上げる。


「二人ともそこまでにしてもらおう。騎士として勅命を果たされよ」


二人の間に割って入った赤髪の青年。

二人目の誓約の勇者の誕生で、今は光の勇者と呼ばれている、コリントス侯子ヘリオス・ジェイソンだ。


「「申し訳ありません。殿下」」


「テオドリック。いや……アニキ。ライアン男爵も悪気があったわけでは無いでしょう。私達の故郷が無くなったのは、地下水脈の枯渇が原因だ。鉱山の村で暮らしている以上避けられなかった」 


「そうだ。私達が傭兵をやるしか無かったことは、こいつはよく知っていた。違うか?」


 ことが自分たちの故郷に関わることだけに、全身を岩石のような皮膚に覆われた変種の有角人タイタンであるミダスも普段の使用人に接する態度では無く、義理の兄としてテオドリックに忠告する。

 地下水脈の枯渇による清水の枯渇が、疫病の流行を招き二人の住んでいた村は滅びた。荒くれ者どもの頭だったテオドリックが、貧しさから傭兵として各地で暴れ回る原因になった事件だ。


 それが傭兵悪辣なるシニスの誕生だった。刺突剣を武器に各地の会戦に出かけては大物狙いを続け、辺境の利権争いでは先陣を切ってならず者を斬って捨てた。いくら騎士になったとはいえ、テオドリックにしてみれば友人だったはずのクレイグが自分達を討伐に来た事実は変わらない。


そのために騎士と認められた時に、大審問の奇跡を受けて死にかけた事実も消えはしない。


「過去の遺恨はわかりますけどね。お二人ともそこまでにしていただけませんか?」


 さらに二人の間に割って入ったのは、フィオナよりも濃い藍色の髪を腰まで伸ばした女性。この村には珍しいきらびやかな刺繍の施されたドレスを身につけている。背はそこまで高くなく、人懐っこそうな大きな目で周囲を見回していた。


「こちらは必要な物資を揃えるのにかなりの手間がかかります。それにこれから半年はこの村の代官を務める身です。冬が来るまでに済ませなければならない仕事も多い。そんな時に御当主様がこのような有様では困ります」


 彼女はエレノア・アーゴット。帝都に居を構えるライアン家の分家、アーゴット家の長女であり、各地の交易品を雪割り谷に送る商会の長も兼ねている。帝都に住む普段ならともかく、雪に閉ざされてはその能力を発揮することもできない。


「エレノア殿の言うとおりだ。今回はデルフォイの議会に掛け合ってそちらからも予算を出す。だから必要な人員を手配して欲しい」


「その通り。我が商会の手配で、もうすでに辺境南部とマケドニアからの移住希望者は移動を開始しています。今は揉めている場合ではありません」


鉱山労働者に遊牧民。猟師に鍛冶屋に商人に大工。そういう様々な人々が新たな開拓地に希望を繋いでいる。あとは二人の心の問題なのだ。


「お待たせしました。フィオナ・グレン=エイドス参上いたしました」


「フィオナ殿。この石頭を説得してやってくれ!」


「フィオナ! シニスにもわかるように泥炭層の危険性を説明してやってくれ!」


 二人に詰め寄られ、フィオナはヘリオスとエレノアを見る。


「俺には良くわからんが水源地はそんなに大切なのか?」


「はい。水の豊富なコリントスはともかく、マケドニアやエトナでは水は貴重です」


 一般的に帝国南部では水の確保が容易だが、北部に行けばそれは困難になる。


「フィオナ。それなら水脈探査の先遣隊を送る必要があったわ。それを忘れるなんて」


「エレノア姉さん。その手配は最初に済ませてあったんだけど?」


「ちょっと、ちょっと。帳簿にそんな予算は計上されてないわ」


 急いでバラバラと帳簿をめくり、見落としが無いか確認を始めるエレノア。

それに促されるようにミダスも帳簿を見直し始める。


「エレノア姉さん。この館に残るのは?」


「えっと……私と帝都から連れてきた使用人よね。長期滞在の湯治客も受け入れるつもりではあるけど」


「うん。説明してない私が悪かったわ。たぶんこの問題すぐに解決します」

お待たせしました。第二話になります。現代では水道網の発達で、水源地の問題はかなり解決されましたが、昭和の頃までは土地があっても開拓できない場所は結構ありました。水が無かったり逆に水が多すぎたりです。ファンタジーということもあり、そこまで給排水について詳しくは書きませんが、面白い題材なので土地改良事業について調べるのも楽しいとおもいます。

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