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村娘が開拓してもいいじゃない!  作者: 紀伊国屋虎辰
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新たなる旅路

どうも皆様お久しぶりです。紀伊国屋でございます。ようやく村娘の第二章開幕です。今回は街道の果てにあるマケドニア北部辺境と、帝国の中心である帝都アクロポリスやアッティカの首都アテナイを舞台として話が進みます。また前回登場しなかった有角族タイタン傀儡族ピグマリオン。そして『界渡り』と呼ばれるゴート族なども登場します。

 雪割り谷、帝国ヘレネス成立以来、皇帝の直轄地として代官の置かれた温泉の村。

フィオナ・グレン=エイドスは温泉代官の跡取り息子にして、帝国騎士。


そして人類史上二人目の『風の勇者』となったリアム・ライアン=エイドスの妻である。


「フィオナ先生~。そろそろ出発の時間ですよ」


 その声は彼女の弟子である紋章官にして魔術師、メディア・ラプシスのものだ。


「ごめんなさい。もう少しだけ待っててね」


 鏡を見ながら紅を指すフィオナ。


「フィオナ先生、メディア先輩。お父様達も準備は終わったそうですわっ」


 所在なさげに眼鏡を両手でいじくりながら、虹色の瞳を持つ少女ゾエ・テオドリックは離れから雪割り谷の本陣を眺めていた。


 フィオナの夫であるリアムが一時期身を寄せていたミダス商会の主人、強欲のミダスことミダス・テオドリックの養女であり形式上は帝国騎士シニス・テオドリックの姪になる。


 もっとも、シニスは今は家令としてミダスに使えているので、彼女のことも主の娘として扱っている。


「わかったわ。ゾエはリアム達の様子を見てきてちょうだい。あっちはお義母かあさんもエレノア姉さんもいるから大丈夫だとは思うのだけど」


「かしこまりましたわ!」


 元気よく手を振って駆けていくゾエ。


「でも、リアムさんもせっかく戻ってこられたのに、また半年も離ればなれなんてあんまりですよね」


「それは仕方ないわ。叙任を受けた騎士は半年は帝都で騎士として奉職しなければならないわけだし」


 大変な苦難の末、ようやく帰ってきたリアムも例外では無い。

メディアの主である誓約の勇者、光の根源精霊アルケーの契約者であるコリントスの侯子。

ヘリオス・ジェイソンが指導騎士となり、帝都に同行することになっている。


 風の魔精霊ダイモーンを倒し、風の根源精霊アルケーの契約者になったリアムを指導できるのは、同じ精霊の契約者であるヘリオスだけだ。

 もちろん武術の師の一人である人馬族ケンタウロスの騎士、デメトリオス・ファシスも同行することになる。


「それをいうならメディアだって同じじゃない。ヘリオスと半年も離ればなれになるのよ」


「それはそうですけど、新たに紋章官と契約するよりはわたしの方がいいですし……なにより勅命ですからね!」


「そうなのよねぇ。まさかお義父とうさんに勅命が下るなんて、予想外だったわ」


 リアムの父、温泉代官クレイグ・ライアンは、その名の通り雪割り谷とその温泉を管理する代官である。

 皇帝の温泉を管理するという立場上、帝都への参勤すら免除されており、本来であれば大戦時の軍事動員以外でこの地を離れることは極めてまれだ。


それが今回北部辺境の開拓村の監督役を拝命することになった。

まだ爵位を次ぐ以前、薬売りとして世界を回っていた頃に良く訪れ土地勘があったこと。

その地の出身で新たに領主に任命されたテオドリックと既知であることが理由だった。


「ただ……テオドリックさんと男爵様があんなに仲が悪かったのは意外です」


「仕方ないわ。テオドリックさんにとっては、お義父とうさんは自分を討伐した裏切り者にしかみえないでしょうしね」


 かつて悪辣なるシニスと呼ばれ、各地の戦場を荒らし回っていたテオドリックを、山間部におびき寄せて討伐したのがクレイグとその父である先代のライアン男爵。そしてフィオナの祖父である、ダイアー・グレンだったのだ。


「でもね、今でも憎んでいるならリアムの師匠なんて引き受けないわよ。そこはテオドリックさんを信じましょう」


「そうですね。喧嘩ばかりしていても暴力沙汰になるなんてことは無かったみたいですし」


「フィオナ! 待たせてすまない!」


 バタン! という音と共に、リアムが飛び込んできた。


「待たせてるのはこちらよ。それよりそちらの準備はもう大丈夫よね。忘れ物とかは無いと思うけど」


「その辺りはぬかりなくエレノア姉さんがやってくれている。半年とはいえ代官の代理を務めるんだ。色々と伝えておかなくてはいけないことが多くて」


 リアムとフィオナが口にしたエレノア姉さんとは、帝都にある雪割り谷代官の居館を管理する、エレノア・アーゴットのことだ。


 男爵が参勤を免除される代わりに、アーゴット家の帝都常在が義務づけられている。

家格でいえば、ライアン家に次ぐ序列二位の家であり、序列三位のグレン家よりも上である。

そのためグレン家には義務づけではない騎士認証を受ける義務があり、エレノアもまた帝国騎士だ。


「ただ、父さんとテオドリック師匠がまた揉めていてね。今はヘリオス様とミダス様が仲裁しているところだ」


 本来は騎士であるリアムがミダスを様付けで呼ぶのはおかしいが、律儀者の彼は一時でも雇用主であったミダスに対しての礼は忘れてはいない。

 ただ、さすがに妻の教え子となったゾエをお嬢様と呼ぶのもおかしいので、そこはゾエさんと呼んでいるようだった。


「母さんとエレノア姉さんが二人で指示を出してるけど、フィオナも手を貸して欲しい」


「仕方ないわね。すぐに行くわ」


 言葉の割りにはまんざらでも無い表情を浮かべて、そっと手を差し出す。

リアムもそれを察して、その手を取るとフィオナはギュッと握り返す。


「それじゃあ参りましょうか。旦那様」


 メディアが差し出した世界辞典マグナ・コスモスを抱えて、フィオナは颯爽と扉をくぐり抜けた。 

なにやらクレイグ男爵とテオドリックに一悶着ありそうな様子。

次回はもう一人のライアンの紋章の担い手、エレノア・アーゴットも登場する、

第二章の序章後編となります。

またまた長丁場になると思いますが、何とぞよろしくお願いします

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