表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/27

「暴力は親に向かう 二神能基著」の衝撃

 この本の著者はあのレンタルお姉さんで話題になった、NPO法人ニュースタート事務局の代表者である。彼は40年以上教育現場でこどもや若者たちと接してきて、現在はひきこもり、不登校、ニートの若者たちの再出発を支援するニュースタートの代表として活動している。

この本を読んでまず驚くのは、家庭内暴力の凄まじさだ。肉体的物理的な暴力の激しさにも唖然とするが、それにも増して精神的な暴力に「正直ここまでやるのか」と息をのんだ。たとえばある若者は自分の母親の髪の毛をバリカンで刈り上げ、モヒカンカット(鶏のとさかのような格好)にし片方の眉毛をそり落とし、なおかつその姿でスーパーに買い物に行かせたというのである。またある母親は日常的に息子に12年間も激しい暴力を振るわれ続けたということだ。そして二神氏はこのような家庭内暴力が現在、日本全国で約20万件存在しているのではないかと推測している。親による子殺し、子による親殺しが日常的に報道されるが、それは上記のような暴力が蔓延して、殺人が発生するその下地がつくられているからなのだ。

二神氏は家庭内暴力が発生するその原因を大きく二つあげている。

そのひとつが「友達親子」である。これはいわゆる「親」と「子」の縦の関係ではなく、親子なのに「友達同士」という横の関係だと僕は解釈している。一見子供を尊重しているようなこの「友達親子」は実は大変危険だという。親が子供に自分の価値観を押し付けて、子供が乗り越える壁となることを回避しているのだ。親の最も重要な役割として子供を自立させることがあげられるが、この「友達親子」は親が自分の指針を示すことをせず、子供に反抗期をつくらせず、その役割を放棄している。

以前僕がテレビを見てびっくりしたことがある。ある高校の男子シンクロの全国大会の模様が放映されていた。まあ、全国大会という舞台なら親も喜んで応援に行くだろうと思う。しかし、この放映された親子は練習中も同じなのである。子供のシンクロの練習に母親は日参しているのだ。そしておやつとかを差し入れして母は喜々としているのだ。今思えば、これは二神氏の指摘している「友達親子」の一例だと思われるが、僕はこの場面を見て異常な違和感を感じたものだ。


 家庭内暴力の原因のもうひとつは「勝ち組教育」だ。

 「いい大学に入り、いい会社に入社し、出世街道を進む」ことが唯一の道として示される。学校でも家庭でも地域でもメディアにおいても、努力し勝ち続けることが人生において最も大切なことだと耳うるさく叫ばれる。終身雇用制は崩壊し、どんな一流企業でもリストラ合理化が行われる現在においてでも、である。

 この「勝ち組」になる道しか選択肢がないように、我々は知らず知らずのうちに刷り込まれている。たとえばあなたの子供が高校受験の際、もうひとつ上のランクの高校へ受験されたらどうですかと教師に言われたとしよう。このことに対し喜ばない親が日本全国にはたしてどれくらいいるのだろうか?と二神氏は問う。ほとんどすべての親が喜ぶのではないかと、それくらい無意識のうちに「勝ち組」路線は我々の中に浸透している。

 しかし人は永遠に勝ち続けることはできない。ほんの一握りの人間しかその栄誉を手にすることはできない。誰もがイチローやゴジラ松井にはなれない。

 けれども幼い頃から「勝ち組」路線一筋でやってきた人間は、いったんレールから外れると、なかなか他に道を見つけ出すことができない。家庭内暴力を振るう子供は、「勝ち組」路線の途中までは順調に行っていた人が多い。昔の栄光と現状との落差に愕然とし、先が見えない閉塞した状況から激しい暴力が噴出する。その暴力は自分に「勝ち組」路線を巧妙に進ませた親そして家族に向かう。(もちろん親は子供のために良かれと思ってそうしてきたわけだが)ある男性は東大に入学することしか人生の意義が見いだせなくて、精神病院に入院している現在でも毎日数学の問題集を解いている・・・それほどまでに「勝ち組」になる=東大に入学ということが完全に刷り込まれている。

 NPO法人ニュースタートは、ひきこもり解決のために、(もちろん家庭内暴力の解決も含めてだが)専任スタッフを派遣し、ひきこっている人たちにさまざまな場を提供している。 それは労働の場であったり、同じような人たちと文化的なイベントを作ることであったりする。それらは、これまで刷り込まれていた「勝ち組」路線とは違った生き方を提示するものだ。(詳しくはこの本を読んでいただきたい)

 僕がこの本で一番強く感じたのは、これまで全く知らなかった「家庭内暴力」の凄まじさであり、「勝ち組」「負け組」を言う安易な風潮で、まさに弱肉強食の冷酷な世界を造り上げてしまったこの社会に対する危機感である。僕たちが気付かない至る所で「勝ち組にならないと人生終わりですよ」と囁かれている。それに対し「NO!」と言うことは容易いことではない。しかし、小さな声でも、はっきりと「NO!」言わなければ、それとは違う道を指し示さなければ、この世界を救うことはできないのだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ