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ショートショートアンソロジー(怪奇・ホラー編)

モノレールの吊り輪

常に目の前に答えは潜んでいるかもしれません

モノレールはよく揺れる

これは乗ったことがある人でないとわからない感覚だ

例えるなら、屋根付きのジェットコースターに乗っている感覚、といえば伝わるだろうか


それは、とある通勤途中の出来事だった


ガタン、ガタン・・・

ホームにブルー一色、先頭にリボンのマークがワンポイントのモノレールが大きな音を立てながらホームに滑り込んできた


『白線より後ろに下がってお待ちください』


「相変わらず良く揺れる・・・」


良く電車にしか乗らない友人に話しても大げさだといわれるが、モノレールの揺れは半端ではない

これで吊り輪か掴まるところがなければまともに立ってはいられない乗り物も正直珍しい

張り合えるとするなら京急線ぐらいか?と思う


「っと」


車両はたったの2両編成

乗ること所も同じなら、立つ場所もほぼ連日同じ

終電近くになると乗っている人はまばらだ


「今日も疲れた・・・」


疲れたというぐらいなら座ってもいいのだろうが、座るのが面倒でいつも立っているのが癖になっていた

まぁ、それが日課の様なものだ


いつもの様に、手短の吊り輪に掴まり体重の半分を預けながら窓の外を眺める

真っ暗な眼下に一軒家のあかりがポツポツとついている


ふと視点を手元に戻した時、吊り輪の上部のあたりに小さく何かが書いてることに気がついた


(あれ?こんなのあったっけ?)


【13】


擦ってみても取れないところを見ると、油性のマジックインクか何かだろう

いたずら書きだろうか

軽く周りを見回す

他に同じ様なものはなさそうだ


(これ消えないぞ・・・ひどい奴もいるもんだ)


きっと駅員が消すのだろう

そう思いながら改めて吊り輪を掴んだ


 ◇ ◇


「ピーーーーーー、間も無く発車いたします」


発車しそうになっていたモノレールに息を切らせつつ飛び乗った

ここ数日は、残業続きで走り込んでばかりのような気がする

そろそろ終電間際の帰宅は勘弁してほしいものだ


そう言えばすっかり忘れていたが、吊り輪に掴まって思い出した

前に見かけた落書きは駅員さんに消されたのだろうか


何気なく握っている吊り輪を離してみる


【1】


(ん?あれ?)


数字が変わっている


「違う数字?あれはどの車両だったっけ・・・」


とはいうものの、立っている場所は多分同じ、もしかすると吊り輪の場所も同じ?


(もしかして全部の車両に書いたのか?)


いつも乗っているモノレール会社は、すべての車両に名前がついていてデコレーションも違う

クリスマスの飾り付け、ラッピングの外装はブルー、先頭にはリボンのアクセント・・・ブルーリボン号?


「同じ車両?」


いたずら書きは、さも初めて書かれた様にそこに刻まれていた


「ちょっと待て、いやまさかな」


こういうホラー小説を昔見たことがある

ありえないことが目の前にあるときは、まずありえないことだとしてもゲンを担ぐこと

それが自分のポリシーだ


「・・・まだ終電でもないし、一つ後のモノレールにしようかな・・・」


周りの不思議そうな視線を後ろに俯きながら車両から降りた


考えすぎかなと思いつつ、既に数人並び始めていた列に並び直す

振り向きざまに頭をあげ、ふと先ほどの吊り輪に視線を向けた


「・・・あれ?」


その刹那、ホームに警報が鳴り響く


ジリリリリリリッ!!!!


「警報!!!警報!!!

お客様にご連絡します

只今後ろを走行しています車両に問題が発生致しました!

ホームに緊急入場します!!!

今すぐ、車両から降車して避難してくだ、さ・・・」


アナウンスが伝え終わるより早く、声をかき消す唸る轟音がレールを伝って響き渡る

目の前には、車体を大きく左右に揺さぶりながら狂った勢いのモノレールがホームに雪崩れ込んだ


「キャー、ワー、ギャア!!!」

ギィィィィグァジャ!!!!!


・・・それから何が起こったか、正直覚えていない


今私の目の前にあるのは大破したモノレールの車両と、けたたましいサイレン、泣き叫ぶ人たち


手元には・・・


ちぎれて飛ばされた【0】と書かれた吊り輪が転がっていた


あの時こうしていれば・・・

その答えはもしかすると目の前にあるのかもしれません

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