魔法の呪文東欧考察2
「さて…、物語を投稿しながら、こちらもまとめて行くわ。」
作者はそう言って微笑んだ。
「そうですね…。」
私は、少しずつ拾ってきた近代史を思い出し暗くなってくる。
私の気持ちを知ってか、知らずか、作者は、この枠のための私たちの舞台を作り始めました。
複数の物語を考え分けるために、私たちは、話し合う舞台を大袈裟に変えています。
この枠では、美しい庭のある洋館にしたようです。
昭和の少女漫画に登場するような、清潔なブルーのストライプの壁紙に、白い枠のフランス窓がある上品な一室で、クルミ材のシンプルな丸テーブルに椅子があります。
椅子に座っていると、作者がコーヒーとスイーツを持ってきてくれました。
「しっかし…、オーストリアの話が、こんなに面倒だとは思わなかったわ(;_;)
そして、コーヒーから始まる物語の奥深さも、こんな事が無ければ知ることも無かったと思うの。」
作者は、ため息をつきながら、リンゴで作られた焼き菓子を私にすすめてくれた。
「まあ、食べなよ…。それ、ヨハン・シュトラウスが好きだった菓子らしいよ。」
作者がうろ覚えの記憶に困惑しながらケーキを食べ始めました。
それは、薄い生地の中に、リンゴとスポンジの崩したものが入っている、素朴な見た目の焼き菓子で、
うろ覚えの知識を、今まで見てきた料理番組やら本の知識をまぜこぜにしたものだった。
私は、フォークでそれをつつくと、一口分を口に入れた。
春巻きのような薄いカリカリとした生地の中に、甘く煮込んだリンゴのシロップ付けと、そのシロップをふんだんに吸い込んだスポンジが、甘い余韻を口に残してゆく。
「美味しいですね。」
私は、少し楽しい気分になりながらいった。
「うん…多分、旨すぎると思うわ…。19世紀に、こんなに砂糖と洋酒を使えたとは思えないし、
洋酒と言っても、私が予算内で手に出来るものなんて限られているから、
去年作ったジョニー赤の梅酒と安いワインを使ったの。」
作者は、批判的に言ってはいますが、それでもとても旨そうに口にしたケーキを味わっていた。
「そう言えば…、この物語、はじめの曲は、ヨーゼフのものでしたね?」
私は、『魔法の呪文』の一章に使われた、ヨーゼフ・シュトラウスの『鍛冶屋のポルカ』を思い出した。
「うん…。普通は、ヨハンの曲を使うと頃なんだろうけどね、この作品、書いてるうちに変更しちゃったから、知ってる知識で何とかしなきゃいけなかったのよ。」
作者は、フォークでケーキをつつきながら、ため息をついた。
「知ってる曲がヨーゼフのものと言うのが、あなたらしいですね。」
「だって、クラッシックなんて、視聴習慣ないんだもん(T^T)
アスモデウスを追っかけていて、建築関係で引っ掛かったのよ、ヨーゼフ。
ダムの設計士から、いきなりワルツを…、それも、オペラ座で披露される曲をピンチヒッターとして作ったって言うんだから、興味があったのよ。」
作者は、そう言って、鍛冶屋のポルカを再生した。
「確かに、珍しい経歴の方ですよね。」
「うん…でも、クラッシックの作曲家って、わりと面白い経歴がある人がたくさんいて…
多分、チャイコフスキーもはじめから作曲家を目指してはいなかったはずだよ。この人も…確か、設計士の勉強をしていたと、記憶してるわ。
設計士から、漫画家転身はわかるけれど、
設計士から、音楽家って…やはり、音楽も突き詰めると理数系のものなのかしらね。」
作者は、コーヒーを口にしながら、静かに鍛冶屋のポルカを聴いていた。
がっ、しかし、19世紀には、シュトラウス一族の曲も、パガニーニの曲も、古典ではありません。
斬新な、時代を先取りした新曲のラインナップであり、彼らの人生の息づかいが、私たちの小さな童話を、怒濤の大河ドラマへと流そうとして行くのです。
それは、このコーヒー一杯にも…集約されていて、
この時代、コーヒーショップは、雑誌や新聞などの情報を知る場であり、
面識のない人々と、沢山の知識を交換できる場でもありまりした。
いってみれば、19世紀のネットカフェと、言うところでしょうか。
と、言うわけで、一杯のコーヒーを作品に登場させるだけで、物語が大混乱に陥るのです。
その上、今回、三章では、背伸びをしてバイオリンの名器、グァネリの話なんかを盛り込んでいるので…
童話のラインを外れそうなほど、世界史が食い込み、
恋愛が登場しないのですが…
少し、渋い展開に走るこの物語、上手く甘さを率いれられるのか、悩みどころですが、まあ、今は、可愛らしい鍛冶屋のポルカを聞きましょうか。