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茶色いノート  作者: ふりまじん
100年戦争
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作者、ジャンヌダルクを語る6

1412年フランスのドンレミ村。

なかなか先に進まないが、1419年辺りまで色々とありそうなので、適当にジャンヌを成長させるわけにはいかない。


とりあえず、地形のはなしだけれど、ドンレミ村はフランスの地図の東側、向かって右手の方向にある。

ついでに、名前が似ていて混乱するブルゴーニュとブルターニュ。

ブルターニュは、地図の向かって左側。ジル・ド・レ男爵のいるところ。


ブルゴーニュは、地図の向かって右側。ジャック・ド・モレーのいるところだ。


ジャンヌの話は人気があるし、読むにしても、書くにしても、これ、覚えておくと重宝すると思う。


ドンレミ村の(した)の辺りにモレーの故郷があったのかもしれない。


なんて、外人の私はロマンチックに考えるけれど、ジャンヌダルクの生まれた頃は、

ブルターニュ派と

アルマニャック派で内乱状態だ。


で、ジャンヌダルクの村は王さま側のアルマニャック派の飛び地になっているらしく敵に囲まれている。

まあ、これはブルゴーニュ側から言えば、敵地が自分の支配地域に飛び地であるんだから目障りだ。


オセロで言えば、ほぼ黒で埋め尽くされたボードに白が一つ残ったようなもので、忌々しく感じることだろう。


その上、ドンレミ村はマース川に近接している。

川を自由に使いたいとブルゴーニュの領主が考えたら、彼らは、目の上のたんこぶの様に取り除きたい存在に違いない。


川と言えば、川を渡ればそこは神聖ローマになる。

私はこの地形を見たとき、ジャンヌダルクの聖女やら、魔女なんてファンタジックな話より、神聖ローマ、ゲルマン人の陰謀ではないかと考えてしまった。


現在、フランスは内乱状態だ。

フランス王の権力も弱く、長い戦争で兵士も減少し、外国の傭兵を雇いいれる始末。


この状態で、田舎の国境なんて管理できるわけもない。


世界大戦の話でも、川を渡って国境沿いの子供達が遊んだり、交流があった話を聞いたことがあるし、ドンレミ村にも、川を渡ってゲルマン人の商人や坊さんが行き来していたと考えても不自然ではないと思う。


当時、フランスは長い戦争で、昔の、カペー時代の面影はないとか、なんかで読んだ気がするし、外国と商売はあった事にしよう。


ジャンヌダルクのお父さんが本当に村の有力者だったと仮定すると、ジャンヌの家にもそんな外国人が出入りする可能性が出てきて、親の話やら、彼らからの話を無意識に聞いて、不思議な世界観を構築していった可能性の方が、私にはミカエルの声を聞いたと言われるより、ゲルマン陰謀説の方が納得できる。


が、私も、ジャンヌダルクの純真さについては嘘では無いと考えている。

近年のアイドルスキャンダルのネットでの発言などを見ていると、ファンという人達は、まあ、よく、アイドルと呼ばれる少女の為に尽くし、そして、よく見てるもんだと感心する。


ご当地アイドルなんて言葉も生まれるほど、アイドルの溢れる現在ですらそうなんだから、フランスでただ一人の聖少女のファンと言うか、信者の皆さんは、一級品のスパイレベルでジャンヌの情報を集めていたに違いない。


そんな純真で熱心で、残酷な野郎達に囲まれて生き残る為には、一筋の疑いも持たれてはいけないわけで、つまり、ジャンヌダルクが嘘をついていたとは思えないのだ。


だから、仮にジャンヌダルクを使ってフランスを混乱させる人物を作るにしても、余程狡猾な人物にしないと話が盛り上がらない。

現在のアイドルが、お泊まりデートの現場を目撃されても、丸坊主になるとか、仕事を干される位だが、

聖少女ジャンヌダルクに男の不祥事や、外国からのスパイの容疑がかけられたりしたら、傭兵や貴族の熱狂的なファンによって、ジャンヌダルクは惨たらしい肉片に変わり果て、ドンレミ村は火で焼かれて跡形も残らないのでは無いかと思うからだ。


が、そんな面倒をゲルマン人がするとは思えない。

だって、現在、フランスの貴族界のセンター的存在は、バイエルン公の娘のイザボーだからだ。

逆にバイエルンは、どうして娘に加勢しなかったのか?

娘はどうして実家に頼らずに、敵味方の男の周りをふらふらしていたのか?

私には理解できない。





マース川を見つめながら、一人の老人がリュートを弾いていた。


彼はロマンチックな中世の物語を暖かみのある低い声で紡いで行く。


それを私についてきたギョーム・ド・ノガレの霊がが懐かしそうに聞いていた。


キリスト教の死生感では、世界の終わりに全ての死者は神によって復活する。だから、罪人は焼かれて灰にされて流される。復活する事が出来ないように。

キリスト教の人は、死体を焼かれるのを嫌うらしいけれど(と、言っても、灰にして撒く人も少なからずいる)、川とあの世を関連させて考えるのは、日本人だけではない。


古代エジプトでも、ファラオが亡くなれば、船にのって死後の世界を旅をするし、ギリシア神話の死者の国にも川がある。


キリスト教には、そんな話は無いみたいだけれど、リュートを奏でる老人にはどうでも良いことだ。


夕暮れの迫る静かな一時、昔を思い、今は亡き友を思うのが彼の日課で、そうしていると友人達が会いに来てくれているような気持ちになった。


ここは(さかい)

命の価値の変わる場所。

老人は歌いながら、マース川の向こう岸を見つめる。

あちらは神聖ローマ帝国。

こちらは地獄の100年戦争。


一見向こうが良さそうに見えるとしても、向こう岸からも、ふらり、ふらりと曲に()かれて兵士や騎士の亡霊が川の近くに寄ってくる。


穢れた彼らは、川を渡ることは出来ないらしく、岸辺で静かに老人を見つめている。


老人は年のためか、最近視力が衰えだしたが、その分、若い人たちとは違う鋭さと、鈍さを手にいれていた。


霊を感じる鋭さと

それらに恐怖を感じない鈍さを。


しかし、今日は何かが違う、岸を(へだ)てて来るはずも無いモノの存在を近くに感じるからだ。


老人はうっすらと白く濁りだした左目をギョーム・ド・ノガレのいる辺りに正確に向けた。


ギョームは、静かに向こう岸を見つめていた。

懐かしい憎悪の香りが漂ってくる。

あの中には、ギョームが地獄に送った騎士の亡霊もいるのだろうか?

ギョームにそれは分からない。

彼らと自分を惹き付ける、さらに強い臭いが川上から流れてくるのを感じるからだ。


モレーが目覚めた。


春先の冷たい川風に混ざって、春の土の薫りを含んでモレーの臭いがギョーム・ド・ノガレの体を包んだ。


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