ジャン
「逃がすことは出来きやせんがね、一目会わせるくらいは出来ると思います。」
と、ジャンに持ちかけたのは、一緒に戦ったラグーザ兵の男だ。通り名は『レクス』仲間内で、からかいの意味も含めてラテン語で王と呼ばれていた。
ラグーザ。
検索したら土地の名前だった。
コンドッティエーレの話も書きたいので、イタリアの傭兵は出来るだけ調べることにする。
彼らは100年戦争を調べていたら登場してきた人たちで、傭兵として100年戦争に参加するシチリア方面の人たちだ(多分、ラグーザ地方以外の人間も含まれてると想像する)。
ラグーザ兵は、歩兵と言うことで本に書いてあったけれど、検索してもそれらしい記事がヒットしなかった。
やはり、あまり武勇伝は無いのかもしれない。
しかし、何か、昔、イタリア方面の島に弓の最強兵団の話を何処かで聞いた…記憶がある気がすんだけどなぁ。わからん。
ラグーザがシチリアの一部なら、彼らは関係ないのかな?
なんて踏み込みたくなるが、そこは今はいい。
とにかく、シチリアからやって来た、ジャンの知り合いのこの兵士は、小柄で色が浅黒く、東洋人の特徴がある。王と呼ばれたわりには気さくで、気の良い奴だ。
平均寿命30才と言われたこの時代。
しかし、彼は傭兵という職種に関わらず長生きをしていた。
それは、彼が抜け目なく、先と人間を見る力があったと言うことだ。
そして、100年戦争。イングランドとフランスの内乱ではあるが、他の国も結構参加している。
戦争資金の外積は、イングランドはヴェネチア共和国、フランスは、ジェノバ共和国、どちらも後のイタリア方面の国が引き受けている。
戦争の捕虜の交渉は、フェレンツェの人間が担当したらしい。
レクスは、色んな人間に顔が利く。
勿論、それなりの手数料はいただくが、確実な仕事と信用が彼の長生きの秘訣だ。
長い職歴と人脈から、フェレンツェの捕虜交渉人にも知り合いがいて、ジャンヌダルクが捕まってからは、この面会ビジネスで小金儲けをしていた。
ジャンは、ジャンヌダルクの処刑の噂が確実になる頃、この男に声をかけられ、結構な額の前金を渡していた。
目的地についたら、ジャンヌダルクに再会できるのだ。
そう考えるとジャンの胸が震えた。
場合によっては、そのまま連れ去る事も考えてしまう。
が、何処かで大人げなく神の奇跡を信じたくなる自分もいた。
聖女が理由なく捕まってしまったのだ。
守護天使たるミカエルが(正確にはミカエルはフランスの守護天使、まあ、ジャンには同じに感じている。)ジャンヌダルクを見捨てるわけは無いのだ。
「そ、そうでしょ?それよ。まさに、それ。SNSのないこの時代、キャッチフレーズは、情報伝達には不可欠だと思うわけよ!で、それをジャンヌダルクに付けた人間がいる気がするのよ。」
昔、横にいるこの女性(正確には奈美なのだが)が、言った言葉がジャンの心を乱した。
ジャンは、ジル・ド・レとジャンヌダルクを救出しようとして、逆に捕まり投獄された事を思い出す。
あのとき、一人のバイエルン出身の騎士がジャンを助けてくれた。
昔の借りを返してくれたのだ。
そして、別れ際にこう言った。
「諦めろ。ジャンヌダルクの運命は決まっている。ルクレード塔でジャックに魅いられた時からな。」
騎士は、良く分からない話をした。
その時は、救出の失敗と悔しさで雑に聞いていたが、ルクレード塔のジャック……。
ジャンヌダルクは、村から出て王を訪ねる道中で、ルクレード塔によっている。
ルクレード塔は、かつてテンプル騎士団の総長ジャック・ド・モレーが投獄された場所だ。
ルクレード塔のジャック?
もし、助けてくれたあの騎士がジャック・ド・モレーの事を言っていたとしたら…。
テンプル騎士団の残党が、この件に関わっていると言うのか?
ジャンは自分の考えに混乱し、否定する。
テンプル騎士団は、大昔の伝説のような存在だ。
あの悪魔の騎士(この当時はまだ、名誉回復はされてない)が地獄から這い上がり、ジャンヌダルクを陥れたというのだろうか?
「…ジャンヌダルクを人気者にしたプロデューサーがいる気がするわ。」
記憶の中で奈美が言う。それがテンプル騎士団の残党だというのか?
ジャンはそこで笑って、馬鹿馬鹿しい考えをふりはらう。が、私はこの展開で、エタりかけの「ノストラダムス…」にこの良く分からない設定用習作が噛み合ってきたことに驚いたわ…
ジャンヌダルクとテンプル騎士団の関わりが出てきたところで、しかも、処刑される前にモレーが投獄された場所に、ジャンヌダルクいたおかげで、「似せコード」に置いてきた、ノストラダムスの冒険ものの登場人物、ガブリエルが関係できる!
で、そうなるとダ・ヴィンチが関われるっっ(>_<。)
泣けるわ。
これは、歴史カテゴリーだけに許された醍醐味だ。
私のような底辺作家の話でも、こうして史実が折り重なることによって、話に深みとコクがプラスされるのだ。
かつて、フランス王に、はめられたテンプル騎士団は、その姿を歴史の舞台から消してしまうが、騎士団の多くのものは、他国に逃げたのだ。
あるものは、スペインをめざし、
あるものは、スコットランドのスチュワート家と縁をもった。
そして、当時のフランス王の強引な処刑に、他国の王は従わず、逆にテンプル騎士団員を擁護したのだ。
私は、騎士団の秘密の宝「ソロモンの鍵」の伝奇を作りたいわけだから、この展開は、なかなか興味深いのだ。100年戦争は、フランスの内乱ではあるが、そこにテンプル騎士団残党の内乱を上からのせてみる、すると、16世紀の免罪符とサン・ピエトロ寺院の補修の話が、なにやらオカルト風味に漂ってくる。
面白そうだが、なんだか面倒くさい。
面倒くさいんだよね。