ボージョレヌーボ
ボージョレヌーボ。このワインを上質なワインとして小説に登場させたら、きっと、ワイン通の人間に辛辣に笑われる。
なぜなら、ボージョレヌーボとは、ボージョレの新酒と言う意味で、その年のワインのできをうらなう類いの酒なのだ。
なんでも一番が好きな日本人は、ワインの味ではなく、地理的な関係で一番に販売されるのが日本だったことで盛り上がる。
日本が一番に売られるなら、
その販売される初めの一本を手に入れたなら、世界で一番にボージョレヌーボを飲む人間になれるじゃないか。と。
なんだか良く分からないが、とにかく、一般人でも努力次第で世界一のレコードをとれるんだから、バブル時代には、わざわざその、初めの一本を味わうために空港まで出掛けた人間もいたらしい。
この、金で他国の文化を安易に掻き乱す行為をヨシとしない識者も少なからずいて、お陰で私も、こうして記事を書いてるわけだ。
確かに、ボージョレヌーボは、若いワインで、ワインを味わうとなると、その評価が変わるのだと思う。
が、価値観なんて色々だ。
中世のフランス人ジャンからしたら、5月に新鮮味のある若いワインを飲めるなんて貴重な事に違いない。
そして、90年代と言う不思議な時代を生き急いだ蘭子には、この若いワインが合う気がする。
今回は、ボージョレヌーボの当たり年と言われた1995年を蘭子に持たせた。
で、その時の世相を調べると、まるで上手く噛み合わせたように、オウム事件の記事が踊っていた。
世紀末の思想に振り回されたその年に、蘭子は茶色いノートを作成し始めることに決めた。
因みに、ボージョレヌーボは、一度人気にかげりが見えるが、1997年、ワインブームと共に、再び消費量を増やすのだそうだ。
で、その年は、蘭子が亡くなった年でもある。
良くできすぎた話だと、苦笑していたんだけれど。
話はこれで終わらない。
古本を見つけたのだ。
「金融犯罪の仕組み」著古池啓二 カッパブックス
それによると、1997年第一勧業銀行の事件があったと、はじめの所から書いてある。
そんな事件、すっかり忘れていたけれど、ここで会ったが100年目ってか!?
ああっ。調べなきゃいけないんだろうか?
蘭子の死因。
古本枠、やっぱり作ろうかな。
1997年の初版。しかも、値引きで100円に堕ちてきた感じでもないんだよね。この本。
と、オカルト気味にうんざりする私と違って、ジャンはとても嬉しそうにワインを飲み干した。
軽く、新鮮なブドウの風味が鼻先を流れて行く。
あり得ないほど磨きあげられ、不純物のない、美しいワインレッドにジャンは時めいた。
前回のシュークリームといい、
今回のワインといい、
本当にこの女性は、森の魔女なのかもしれない。
ジャンは、不思議な出来事に驚きながらも、この美しい魔物に興味を持たずにいられなかった。