奈美、ジャンヌダルクを語る。6
「シュー…クリーム。」
ジャンは、未知のキャベツの存在に混乱する。
大航海時代には少し早いが、十字軍が東洋から砂糖を持ち込んでから、随分とたってはいる。
甘い草があるんだから、見果てぬ世界には甘いキャベツがあってもおかしくはない。
「そんなに驚かなくても、シュークリームって、フランスのお菓子でしょ?」
奈美は呆れながらジャンをみる。作者の私は、調べてみたが、どうも、シュークリームは、カトリーヌ・ド・メディチの連れてきた料理人が作ったらしい。
お菓子や料理自慢は、カトリーヌの時代以前は注意が必要だ。
「そうなんですか…」
ジャンは、イタリアに近く、海外の珍しいものが入ってきそうな南仏を思った。 この時代、まだまだパリは花の都とまではいかないようだ。
「うん。まあ、それより、ジャンヌよ。この問題は、ジャンヌの人格より、イザボーについてが問題なの。調べたら驚いたわよ。」
そう。調べたら驚いたよ…
イザボー。情熱的な女性である。
1392年、旦那のシャルル6世が発狂すると、ブルゴーニュのフィリップ公爵の後押しを借りて、センターに昇格。
が、まもなくフィリップ病死
で、旦那の弟オルレアン公のルイと結託。
が、ルイも死ぬ。
こうコロコロ男が死んで行くと、なんだか、暗殺も疑いたくなるが、それは置いて、
まずは、この人、権力の位置を確保するためなら、平気でその時々の実力者の男性に身を寄せるのだ。
もう、調べながら、笑ったわ。
それなりに年を重ね、女を武器にセンターの為に身も心も使うアイドルと
田舎の冴えない女性だが、清純で純情な…
不良に愛される正統派アイドル。(シャルル7世の兵隊は、乱暴者が多くて、パリ市民には嫌われていたらしい。)
イザボーとジャンヌは、まさしく、ベタな昭和のドラマにある、アイドルセンター争奪戦みたいな関係だったのだ。
こうなると、ジャンヌを異端とした坊主やイングランド人も、それなりの言い分がある気がしてきた。
キリスト教でない私ですら、なんだか疑問だったのだ。
なぜ、シャルル7世の血統の話を、田舎の娘に突然神が話し出したのか?
キリスト教には、この手の話のテンプレがある。
受胎告知だ。
マリアもまた、結婚する前に、イエスを妊娠して疑われたが、天使が現れてとりなしてくれる。
この話では、大天使ガブリエルは身内やマリア本人の前に現れて、とりなすのだ。
なんの関係もない田舎娘に神やら天使が、王さまの血統を語るのは、なんだかおかしい。
その上、マリア役のイザボーは、権力者に恋愛モードで取り入って、センターを死守するような…、アイドルとしても、政治家としても、反則技を使っている。
まあ、親がとんでもない人物でも、子供もそうとは限らない。と、シャルル7世を調べると…
これがまあ…、ろくでもない。
この辺りの話は、藤本ひとみ先生の「ジャンヌダルクの生涯」が、分かりやすくて面白かった。