奈美、ジャンヌダルクを語る。4
「それでは、ジャンヌダルクは、神の声を聞いてないと…、私たちを騙していたと貴女は言うのですかっ。」
ジャンは、強い意思を感じる太い眉を寄せながら悲鳴のように叫んだ。
そう、神の声を聞いてないとしたら、異端と見なされて処罰される。
「そこ、今は考えなくても良いと思うの!神とか天使とかの声を聞いてようが、いないが、モーゼの時のように海を割れたり、川が血の色に変わったりしないんだから、神様もジャンヌダルクの問題は人間の知恵で考えろって言ってると思う。ジャン、少しは冷静になったらどう?」
奈美は、好戦的にジャンを睨んだ。
「…本当に、神はジャンヌダルクを助けてはくれないのでしょうか?」
懇願するようにジャンに見つめられて、奈美は頭がいたくなる。
コイツ…本気でチート・イベントが起きると思ってるよ。
確かにここは、なろうだ。
チートにハーレム、異世界転生、なんでもありの物語の世界。しかも、この作品のカテゴリー伝奇の世界ではあるけど…
残念ながら、チート発動させるほど私も奈美にも経験値はない。
そして、これは歴史物。
ジャンヌダルクは、史実の通りに火刑にかけられる。
「とりあえず、人の知恵で何とかしろって事だと思うわ。奇跡なんて簡単には起こり得ないのよ(特に習作だし)。頑張って問題と向き合った人間だけが、読者にそれを祈ることを許されるんだから。まあ、それでも叶わない事の方が多いけれどね。」
奈美は寂しそうに微笑んだ。彼女にも結末を知りたい物語がある。
「では…どうしたら良いのですか?」
このままでは、ジャンヌダルクと永遠に会えなくなると考えると、ジャンはいてもたってもいられない。
既に、ジル・ド・レは、ジャンヌ奪還のために動き出したようだ。
「とにかく、真実を追わないと!おかしな所を掘り下げて、正しい方向を見定める必要があるわ。」
奈美はジャンを見た。先を知らないジャンは、藁にもすがるように奈美を見つめて、その切ない表情に奈美は胸を締め付けられる。
そんな目で見つめても、私には、どうすることも出来ないわ。
奈美は無力感を感じていた。
よく、タイムトラベルもので歴史に関与するなとか言われるけれど、お話の世界も、約束ごとがある。
いくら、なろうだからって、既に作り上げられた物語を無視するわけにはいかない。
ジャンは、この後1431年にジャンヌダルクの火刑を目撃して、その後に一家惨殺をするのだ。
今更それを覆せる訳もない。
「真実…、貴女は、我々の仲間の中にジャンヌダルクを陥れた人間が居ると言いたいのですか。」
ジャンは冷たくいい放ち、何か遠いものを見つめていた。