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茶色いノート  作者: ふりまじん
100年戦争
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奈美、ジャンヌダルクを語る。3

「で、私は思うのよ。ジャンヌダルクって、本当に天使の声を聞いたのかって。」

奈美は真面目な顔でジャンを見た。

ジャン、貴族で兵士で…残忍な殺人鬼の未来を持つ男だ。腰のナイフも木の葉型のギリシアの槍を思わせる逸品で、使い方次第で暴漢の退治から、草の凪ぎ払いなど重宝しそうな代物だ。

勿論、奈美に致命傷を与えるなんて、簡単に出来るだろう。

「貴女は…ジャンヌダルクを異端だと言いたいのですか?」

ジャンは体から暗い闘志を放ちながら奈美を見る。

奈美はその切実な表情に、ジャンヌダルクが捕まってからの苦悩を見た気がした。


ジャンヌダルクを捕獲したのはブルゴーニュ公国軍のリニー伯ジャン2世だ。

沢山の人間が、この男にジャンヌダルクの身代金の交渉をした。

あのジル・ド・レ男爵もその一人で…(史実はわからない。)

思い詰めた表情で、狂ったように駆けずり回る彼の姿は、端から見ていても痛々しかった。

そうして、ジャンヌダルクがイングランドの人間に売られたことを知ったとき、彼の絶望と怒りは凄まじく、長く戦場をかけずった腹のすわったジャンですら、その重い殺意に恐怖を感じた。


「異端…とかじゃなくて、キャッチフレーズとマネージメントみたいな?うーん。アイドル的な考えから考察したいのよ。」

奈美は彼女なりに真摯にジャンに向き合った。

「き、キャッチフレーズ…」

ジャンは、良く理解できないその言葉に、異国の華やかな文化を感じて、気持ちを少し柔らかくした。


キャッチフレーズとはなんだろう?

なにか、まじないの言葉と言う意味だろうか?

混乱するジャンに、奈美は必死で子供の頃に憧れたアイドルを思い出す。


ビデオ時代の奈美は、健二と80年代のアイドルのビデオを見たりしているので、わりと広い時代のアイドルを知っている。


特に、松田聖子が好きだった健二にかわいいワンピースを買って貰ったり、歌をねだられたりしたので、思い出がある。


この時代のアイドルは、清純で、可愛らしくて、デビューに際して、自分を表現するキャッチフレーズを持っていた。


「うーん。仕方ないなぁ。まあ、恥ずかしいけど、さっさと考察して二章に進みたいから(本心です)、ちょっとやってみるわ。」

奈美は諦めのため息を一つついて、昔を思い出す。


奈美の家は工務店で、若い衆とか、知り合いの親方衆と忘年会などを盛大にやっていた。


健二の溺愛で、本格的にアイドルごっこをしていた奈美は、宴会の余興によく駆り出されていた。


で、挨拶をするためにキャッチフレーズもたくさんあった。


はじめは、健二と二人遊びだったので、


俺だけの妹


だった。


で、宴会に際して、おじさん好みのフレーズをつけられた。


夢見る初恋人形。


ああ、書いていて痛い。ちなみに、松田聖子さんのキャッチフレーズは、


抱きしめたいミスソニー


なんだそうだ。


忘れてしまうほど、たいした威力を感じないが、余興の後に少し早いお年玉を貰っていた奈美には、その威力を札の枚数で実感していた。


「はじめまして。瀬謙奈美。お転婆だけど恋を夢見る12才。よろしくおねがいしまーす。」


鼻にかかった甘い声を久しぶりに出してみる。


きゅん。


なんだか知らないが、胸騒ぎを覚えて、ジャンは唇を軽く噛む。


まだまだイケるか?なんて、自分の世界に浸っている呑気な奈美だが、


「じ、十二才!?」

と、ひどく驚くジャンに、

「い、いやいや、12才は無理だから。」

奈美は必死で否定するはめになる。

確かに、東洋人は若く見られるとはいえ、あんた、12才は、無理だから。


「昔、ちょっと余興でアイドルの真似事をしたのよ。その時のセリフだから。ごめん、でも、なんとなくわかってもらえたかな?」

奈美は、照れ笑いを浮かべながら、

「あと、お兄ちゃんは一人だけだよ…」とか、

「私はときめく初恋人形」とか、振り付け混じりに笑いを取るためにやってみたが、純朴なジャンは、どストライクで奈美を見つめていた。


「た、確かに、なにか、そういわれると、胸のあたりがくすぐったいような気持ちになりますね。」

ジャンは平静を取り戻そうと目を閉じて息をはいた。

暗い森に火を囲んで若い男女が二人きり…


なんだか、怪しい雰囲気になりだしたなぁ。

面倒くさいぞ。


「そ、そうでしょ?それよ。まさに、それ。SNSのないこの時代、キャッチフレーズは、情報伝達には不可欠だと思うわけよ!で、それをジャンヌダルクに付けた人間がいる気がするのよ。」

奈美は、小説家モードで歴史のミステリーを語りだした。


ダヴィンチ・コードの格調はないが、なろう的には、いい考察だ。


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