奈美、ジャンヌダルクを語る。2
「地下アイドルと比較考察してみようと思っているわ。」
奈美は使いなれない言葉を恐る恐る発してみる。
なんでも、テレビに出演するほどメジャーではないが、ライブハウスなどで活躍するアイドルを地下アイドルと呼ぶらしい…
「ち、地下偶像崇拝!」
ジャンは、思わず息をのんだ。
地下の洞窟や、城の地下室で、あの方が異教の神を崇めていたとでも言うのか?
この女は、イングランド側の刺客なのか…
宗教裁判の近づく微妙な時期にジャンは、腰のナイフに手が伸びるが、夏のホラーのちょい役に、作中作者を殺されては困るので、ジャンの背後から、私は薄暗い恐怖を吹き込んだ。
ジャンは、引き締まった体に鳥肌がたつのを感じて、恐ろしげに奈美を見つめた。
や、やはり、魔女なのか?それなら、この女こそ、地下偶像崇拝の司祭ではないか?
ジャンは、若い創造力で、子供の頃に想像した悪魔の儀式を思い出す。
森の中で、裸になって、さらった子供にナイフを突き立てて生き血を吸うのだ。
そんな事を考えると、焚き火の柔らかい炎に包まれる奈美の胸元が艶かしく思えて、田舎娘とは違う外仕事など、した事の無さそうな喉元の白さに、ゾクリとしたおぞましい快楽が背中を走るのを感じて、思わず十字を切る。
「なんと、おぞましい…」
ジャンは、思わず大声をだした。
「おぞましいまでは言い過ぎだわ!」
ドルオタと呼ばれる人達について、最近少しだけ知った奈美は思わず擁護する。
確かに、彼らを悪く言う人達もいるらしいし、キモいとか、なんとか、書いてある掲示板も見た気がするけれど…
活動内容をイマイチよく理解してないけど…
それでも、おぞましい。は、言い過ぎだ。
奈美は憮然とジャンを睨んだ。
「あんた、女性に憧れたことは無いの?周りがおかしいとか、批判的に言っても、誰かの夢に寄り添いたいと考えることは、そんなにおぞましいかしら?確かに、たまには、行き過ぎていると思う記事も見かけたけど…、良く知りもしないで批判はやめて欲しいわ。」
奈美の真っ直ぐな目に、ジャンは、オルレアン奪還の前夜の事を思い出す。
確かに、古参の将軍は軒並みジャンヌを…我々を批難しバカにしたが、ジャンヌは偉い将軍や頭のいい軍師を言い負かし、旗と気持ちで勝ち進んだのだ。
良く見れば、奈美は異国の人間のようだ。
古代からの異教の神の話をしているのかもしれない。
ギリシアのアテナ神や美しきビーナス神なら、学生時代に少しだけ読んだことがある。
異教の全てが残酷とは限らない。
「すまなかった。」
全く関係ない事にジャンは謝罪し、奈美は見た事もないアイドルのファンと心の中で、ハイタッチする。
「分かってくれれば良いわ。私こそ、いきなり貴方の知らない世界の話をはじめて悪かったわ…。私の国には、うら若き乙女だけがなれるアイドルと呼ばれるお仕事があるのよ。歌や踊りを見せて、皆に愛と勇気と夢を与えるのが彼女たちの仕事なのよ。」
と、説明しながら奈美は少し恥ずかしく感じだ。
アイドルとは、清らかな神に仕える巫女のことなのか。
ジャンは少しだけ安心した。それなら、ジャンヌと比べるのは仕方ない。
作者の私も恥ずかしいが、100年戦争を抜けるためには書くしかない。