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茶色いノート  作者: ふりまじん
100年戦争
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奈美、ジャンヌダルクを語る。

もう、ここに来て100年戦争にエタらされてたまるものですかっ!


と、ミシェルと別れた奈美は思った。


で、作者の私もホラーイベントやら何やらでボヤけた頭を整理する。


ので、ここで、一気に1430年。ピエールじいさんの生まれた年へと移動する。


「私は、21世紀の人間だわ。80年代のキャリアウーマンや戦う女性のイメージから、21世紀風味で地下アイドルに例えて考えることができるわ。」

奈美は、森の中で一人でたき火をおこしながら考えた。

習作だから、都合よく小道具を用意する。

暖かいスープに、少し固めのパンとチーズ。


蚊とか、暴漢は面倒だから登場しない安心安全な森の中で、夕飯を準備すると、都合よくズタ袋に軽装の(たくま)しい体つきの男性が闇からあらわれる。


「すいません。ご一緒してもよろしいですか?」

穏やかな物腰のその男は、後に屋敷の人間を惨殺して回るなんて、作者でなければ想像もつかないような穏やかさの「眠れぬ杜」のジャンだ。

「どうぞ。よければ、パンも召し上がります?」

奈美は、ジャンの腰のナイフに少しビビりながら返事をする。

「いえ、お気遣いなく。」

若い女性が一人で森に野宿する(さま)にジャンはビビりながら穏やかに答える。


イングランド兵に向かって勇ましく戦う彼も、ルネサンス時代の人間なので、魔女の存在を信じている。 それでなくても、100年戦争で荒れたヨーロッパ。 はぐれ兵やら、傭兵くずれ、山賊のいる森に娘一人で野宿なんて、不気味以外の何者でもない。


「そう。じゃ、私だけいただくわ。」

奈美は暖かいスープをなみなみと皿に盛り、心行くまで堪能する。その横で薄い黒パンに酸味のキツい安いワインを無言で取り出すジャンがいる。


やはり、旨そうだ…


ジャンは、少し誘いを断った事を後悔しながら、それでも、彼の祖母が子供の頃に語ったおとぎ話を思い出す。


本当は怖い…シリーズなんてのがあるように、昔の童話は不気味で残酷だ。

ジャンもそんな不気味な童話を聞いて育つ。


魔女は、人間を襲うのだ。


敬虔な神の戦士を誘惑して堕落させる。

疑いと恐怖を抱きながら、ジャンは奈美の姿を盗み見た。

が、そういうチラ見は、意外と女性は敏感なもので、特に胸元やヒップラインを追うような視線なら、あからさまな嫌悪感をにじませる。

ジャンは、運の良い男ではなかった。何気なしに奈美の胸元を見たときに、奈美と視線があったのだ。

魔女だなんだと疑ってはいても、若い娘に怒りと恥じらいのある抗議の視線を向けられたら、若いジャンは赤面して目をそらすしかない。


「もう。食べたいなら、そういえば良いでしょ!」

奈美は少しイラつきながら、皿に大きめの肉のはいったスープを盛るとジャンに手渡した。


「さあ、食べなさいよ。そんな貧乏臭い目でチラ見されたら、こっちが旨く感じないもの。」

ジャンは、受けとるしかなかった。どちらにしても空腹だったし、胸元を見ていたと思われるより、食べ物を見ていたと思われた方が平和な気がした。


スープはこの上なく旨く、ジャンはおとぎの世界に迷い混んだ気持ちになった。

戦争は、年を追うごとに酷くなり、増えるイングランド人は、春先の収穫までの蓄えを狙って襲撃してくる。


こんなに、小麦の…トロミの効いた、塩も砂糖(!)の甘味のある極上のスープは、あのシャルル7世やヘンリー5世だってそうそう召し上がれはしないだろう。(まあ、21世紀のインスタントだからね)


ジャンは、その不思議なスープを夢中で口にいれ、気がついたら既に三杯もおかわりをしていた。


「すいません。つい、美味しくて。」

ジャンは、すっかり警戒を解いて謝った。

「いいわよ。気にしなくても。若い人はそんな気を使うことはないわ。」

奈美は屈託なく笑い、ジャンの肩を叩いたが、ジャンからすれば、見た目20才と自分よりも年若い娘が、あたかも年上のように振る舞う(実際は30代だからなぁ)様子は、どうしても違和感を感じた。


例え、人ならざるモノだとしても…悪いやつではなさそうだ。


ジャンは、独りよがりに奈美を評価した。


「ところで、貴女はどちらへ向かわれるのですか?」

ジャンは、打ち解けて奈美に話しかける。

「ん?そうね…とりあえず、ジャンヌダルクを見に行きたいわ。」

奈美はあてのない物語の行く先を今決めた。

とりあえず、ジャンヌダルクの近くに行けば、何か考えがまとまるはずだ。

「そうですか…。あの方を…、お知り合いですか?」

ジャンは、とりあえず、自分がかつて、彼女と隊を共にしたことを伏せた。

魔女も怖いが、ブルゴーニュの…イングランドの手先なら、そちらの方がより恐ろしい。


「違うわ…。ちょっと、本を書くために調べたいと思っていたの。」

奈美は眉を寄せて、終わらない物語を思い出して憂鬱な気持ちになる。

「本!貴女は、どういった身分の人なのでしょう?」

あまりの不可解さに、つい、口からでた言葉にジャンは後悔した。これだけのご馳走を食べ、文字が書ける女性と言ったら、それなりの身分の女性に違いない。

が、そんな身分の人間が一人で旅をする訳がない。

魔女で無いとしても、山賊(もしくは、好戦的な領主)の愛人なんて事だってあり得る。

藪をつついて蛇が出てくる可能性はきわめて高い。

「平民よ。で、うちは建築業。私は、家を手伝っているんだけど、たまに趣味で話を作るのよ。おかしいかしら?」

奈美は、あっけらかんと説明して、ジャンに笑いかけた。

「趣味…ですか。」


この時代、女性は自由に外に出られた訳ではない。ましてや、趣味なんて訳のわからないものを理由に一人旅を許すなんて…

嘘をついているようには見えないが、なにか隠しているに違いない。


「そう。ジャンヌダルクに興味があるの。」

自信に満ちた奈美の笑顔に、ジャンは疑問を飲み込んだ。


そう、ジャンヌダルクは、奇跡。神がフランスにもたらせた守護天使なのだ。

信仰深い貴族の使用人かもしれない。そう、彼は天使と共に戦ったのだ。

ジャンは、目の前の不思議な女性の存在を受け入れた。


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