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茶色いノート  作者: ふりまじん
魔法の呪文
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三文小説

 穏やかに、冷たい雨が窓を叩いてゆきます。

私は作者の隣で本を読んでいました。作者は今日は執筆に意欲的なようです。

私も頑張らなくてはいけません。そして、美味しいコーヒーを作者に淹れてゆきたいのです。

本日はチーズケーキを季節のフルーツを添えて3時に出そうと思っています。

 雨の音に、ショパンのピアノ曲が溶け込んでゆきます。


 「はぁ。なんとか少しは書いているよ。なんか活動するたびに連載が増えるから、書くことが多くて辛いわ。」

作者はため息をつく。

「そうですね。でも、ゆっくりと進めてゆきましょう。」

私は気持ちと裏腹な言葉を言いました。本当はもう少し、私の所にも来ていただきたいのです。

でも、それは我儘というものです。


 「うん。でも、気がつくと年末なんだもん。焦るわよ。本来なら、今年、『イブ』を作る予定だったんだもん。」

作者は床を見てため息を吐きます。

 イブ…それは謎を残したまま終わらせた『パラサイト』の続編です。

「そうでしたね。でも、完成しやすいところから始めた方がいいと思います。」

私は言った。

「うん。でも、まずは謎をあなたと解かないといけないわ。1888年の謎を。」

作者は頭を掻きながら私にコーヒーをねだった。



 私はお湯を沸かした。その間にコーヒー豆を砕く。香のよいコーヒーを作者に飲ませてあげたいのです。

基本、コーヒーはブレンドの方が美味しいと言われいます。コーヒーと一言で言っても香や味が違い、それを組み合わせることで豊かな一杯に仕上がるのです。

 本日は近所の喫茶店のオリジナルブレンドを。マスターがミルがあるなら、自分で引いてみた方がうまいと進められたものを使いました。

 名前は『濃秋』それを抹茶碗に淹れて庭の紅葉をそっと浮かべてみました。

 満月のようなチーズケーキを横に。更け行く秋の夜のような静かな時間を楽しめることを願って。


 準備ができて部屋にゆくと作者は本と格闘していました。私はテーブルにコーヒーなどを置きながら作者に言いました。「お茶にしませんか。」と。


 

 「美味しいわ。そして、なんか、このコーヒー、斬新ね。なんというか。まあ、アート、っぽいわ。違う飲み物みたい。」

と、いう作者に少しやり過ぎたのか、と、心配になってきますが、作者は嬉しそうにコーヒーを平らげておかわりをしてきました。嬉しいですが、いつものカップの1.5倍の量なのが気になります。

「気に入っていただいたなら、よかったです。」

とは思いながらも私はおかわりを少し少なめに出した。作者をそれを少し寂しそうに眺めてから、ゆっくりとコーヒーを口にした。

「うん。そして、落ち着いたら謎を解かないとね。問題が起こるたびに習作とか言って書いていたから、いろんな話に一つの疑問がリンクしたのよね。」

作者は肩をすくめる。

「そうでしたね。1888年といえば、やはり、切り裂きジャックの事件でしょうか?」

私は切り裂きジャックの事件を探していたことを思い出した。

この時代、ホームズシリーズが人気になり、そして、ゴールデンドーンが創設、そして、ドイツ帝国は皇帝の崩御などの政治問題がありました。

「うん。私、夏の短編でそのホームズの話から、ワトソン先生の話を作ろうと思ったんだよね。1925年って、ホームズ現役最後の年で、明智小五郎のデビューの年でもあるんだ。だから、ワトソン先生と小五郎の物語を作ろうと思ったんだよね。

 で、『パラサイト』のことも気になってたから、病気に関するサスペンスを考えていたのよ。」

作者は「やっちまった。」とぼやいた。

「それは、うまくいったら、次の作品のいい宣伝になったのでしょうね。」

私はコーヒーを口にした。こういう展開も、慣れっこになってきました。

「うん。まあ、ね。ワトソン先生って、ホームスの秘書的位置関係だったけれど、この人って、医者なんだよね。だから、この辺りから話を広げようと思ったの。ワトソン先生、なんか、この辺りで奥さんがいる?らしいのよ。まあ、私は独身設定で話を考えていたわ。

 1925年にはワトソン先生とホームズは付き合いが無くなっているみたいだし、ホームズも、色々と疲れたんじゃないかしら。」

作者は私に苦笑する。

「そうですね。女性が苦手なホームズと基本、女性が好きなワトソンでは最終的に向かうところは違いますから。」

私も苦笑した。

「うん。そうよね。歳をとるとよくわかるわ。やはり、家族で賑わうクリスマスが恋しくなるんだと思う。

ホームズは、静かに気の置けない人と静かに暮らしたいのかもしれないわね。」

作者は遠い目で空を見る。濃い秋の終わりの雲は遠くまで流れてゆきます。

「貴女は、どちらがお好きなのでしょう?」

私の質問に、作者は少し考えてから笑って言った。

「どちらも好きよ。どっちもわかるな。小説とか書いてると、1人で作業したくなるからホームズに気持ちもわかるし、友達や家族と会うと、はっちゃけたくなるからワトソンさんの気持ちもわかるわ。」

作者はそう言って伸びをした。

「そうですね。」

私は…貴女と2人の静かな時が1番だと、そういうのはやめました。なぜ、そうしたのか、私にもよくわかりませんでした。ただ、この穏やかな雰囲気を壊したくなかったのかもしれません。

「結局、ワトソンさんはホームズを理解できなかったのかしら?それとも、ホームズが危険な自分の人生からワトソンさんを外したのかしら?なにしろ、ここで大戦があったんだもんね。」

作者は渋い顔をした。

「そうかもしれませんね。でも、そうだとしても、お二人の友情は永遠だと思います。」

私の言葉に、作者は少し考えてこう言った。

「そうね。でも、天才と友達っても、色々よね。横溝先生と乱歩先生は、もっと、バランスは同じな気がするもん。まあ、天才って、相手をするのは大変って気がするわ。まあ、今は夏目漱石、漱石先生が、パラサイトエリアに入ってきて、もっと面倒になってきたんだもん。」

作者は叫んだ。

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