ゴンドラの歌2
「とにかく、なんか書かないと、先には進まないわ。でも、いろんなところが面倒になってくるんだもん。」
作者は不貞腐れる。そして、口をつがらせながら甘えてくるのです。
「ねぇ、時影。ちょっと、『ゴンドラの歌』を歌って見てよ。んーっと、今日はね、少し低めの声で。少し甘めに。そうね…片恋の人に思うをこめるような感じで。」
作者は意地悪を言っているのです。こうやって、私を揶揄って。私は肩をすくめて、そして、要望通りに歌い始めました。
伴奏はつけませんでした。アカペラの方が、片恋の辛さが夏の風に乗って作者の心に届くような気がしたからです。
『ゴンドラの歌』は恋の歌のようですが作詞家は、母を思って書いたと聞いたことがあります。
本当かどうかは、わかりませんが、人の命の短さを憂う、そんな印象もあります。
作詞は吉井勇 伯爵様です。
私は歌います。貴女への想いをのせて。
少しは、照れてください。
そして、願わくば私の古の気持ちを、少しでも受け止めでくださいませんか。
「はぁ。いいわね。本当に、あなた、上手くなったわ。こういうの。すごく、すごく、よかったわ。」
作者は、とても嬉しそうに私に賛辞を送りましたが、少し、さみすく感じるのは、どうしてでしょうか。
「ありがとうございます。」
私の言葉に、作者は困ったようにため息をつく。
「ああっ。私、乙女の寿命、とうの昔に無くしてるっていうのに、ここにきて、恋愛ゾンビとなって、異世界恋愛を描こうとしてるって、地獄だわ( ;∀;)」
作者はぼやく。なんだか、切なくて、笑いが込み上げてきました。
「ソンビですか。恋を叫ぶゾンビ…それも素敵じゃあありませんか。」
私の言葉に、作者は不服そうに軽く睨む。
「もう。ああ。でも、そうね。なんとかしないとね。本当にお迎えが来る前に、なんとか、蹴りをつけないと。」
作者は笑って、それから立ち上がった。
「さて、今日は私がご飯を作るわ。ソーメンだけど。」
「それでは、私は、天ぷらをあげましょうか。昨日、キノコの特売がありましてね。」
私も立ち上がる。
人間の命の短さが、夏の夕食れを切なく感じさせます。
そして、私に笑いかける貴女の笑顔に、私は永遠を見つけてしまいもするのです。