100年戦争
に、しても。いきなり100年戦争を語るって…
奈美はため息をついた。が、仕方ない。奈美はチョコレートを食べ終わったミシェルの口をふきながら、100年戦争。語ることにした。
「ピエールじいさんの事知ってる?」
奈美は、祖父のピエールから攻めることにした。
100年戦争なんて、19世紀から言われたらしいし、ミシェル、歴史とか得意には見えないし…
「知ってるよ。パパが僕の年くらいの時に死んでしまったのでしょ?最近、よくその話をママとしているから。」
ミシェルが寂しそうに呟いて、奈美の気持ちを暗くした。
どうも、私の話では、父のジョームは、アヴィニョンにミシェルをよんで後を継がせたいようだが、母のレニエールは側に置いておきたいようだ。
まあ、レニエールの家は資産家で、果樹園とか、色々相続しているみたいだし、やはり、レニエールも不安定な情勢のなかで、アヴィニョンにミシェルを一人行かせるのは嫌みたいだ。
「ミシェル、あなたはアヴィニョンに行きたいの?」
奈美の質問にミシェルは元気に頷いた。
「うん。だって、アヴィニョンには、ここには無いものが沢山あるもの。僕は知らない世界の事を沢山知りたいんだ。もっと、新しい本だって読みたいし、不思議な海の話も、冒険の事も…世界の果てについても知りたいんだ。」
おおっ…。ミシェル、いつになく積極的で、いい感じに冒険小説主人公見たいじゃないか!
「じ、じゃあ、ジャンヌダルクと言う、フランスを救った聖女の話をするわ。」
奈美は嬉しそうに話し出す。うん、そうだ、その調子だ。と、思ったのもつかの間、あからさまにミシェルは、疑いの視線をこちらに向ける。
「えー。そんな話面白いの?女の話なんて、どうせ、つまらないよ。」
口を尖らせて文句を言う様は、剛の分身…といった風な憎らしさで、つい、奈美はその可愛い憎まれ口をつまんでみたくなる。が、ぐっとこらえて、穏やかに問いただす。
「どうして、女の話はつまらないの?」
「だって、料理とか、掃除の話でしょ?あと、近所のおばさんの噂話とか。」
ミシェルは、大人の男のように呆れたため息をつき、その様子が、可愛らしくて思わず奈美は笑ってしまう。
「あら、ジャンヌは17才の勇敢な少女で、騎士の鎧をまとって、フランスの為に闘ったのよ。」
奈美は芝居がかった口上でミシェルの気を引いた。
さて、これは、設定用の習作だから、ここからは、軽く私が100年戦争を語ろう…
が、100年…とにかく、長いし、面倒くさい。
と、言うわけで、これから必用な部分をかいつまんで書いてみる。
ぶっちゃけ、原因は本家カペー家の血筋が途切れて、跡目を継ぐのにどうするか?で揉めたのが原因だ。
現在でこそ、イギリス人とフランス人は大きく文化の違いを感じるけれど、どうも王族は、どちらもノルマンディ人?らしい。(ネットでちらりとみただけなので、あやしい情報だ。)
で、イングランドの初代王ヘンリー2世は、大陸にも沢山の土地を持ってたけど、代が変わって大陸の土地をフランス王フィリップ4世(この人、テンプル騎士団にもインネンつけた人だ。)とシャルル4世に一時的に占領されたりして、揉める原因を作ってるわけだ。
で、他にもいろんな問題があるけど、イングランドにも、スコットランドとのいさかいがあり、負けたスコットランドの王さまがフランスに亡命、それに反発したイングランドのエドワード3世が、
「あんさんが、その気なら、わしらも、義理を通すことはないわ。わし、フランス王になったるわい!」
と、ばかりに宣戦布告をしたのが長い戦いの始まりだ。
1337年11月の事だ。
まあ、100年、いろいろある。が、ジャンヌが関係するのは、シャルル7世だ。
この王さま、結構大変な人生を歩んでいる。
お父さんのシャルル6世は、後に精神錯乱になるし、
そんな旦那だからか、お母さんのイザボーは、息子を旦那の子供じゃないとか言い出す。
そこまでして欲しいのは、お互い豊かな土地を自由にすることだ。
で、その土地の住民も、自分達の生活を豊かにしてくれる統率者を選ぼうとするのは、仕方ない。
イングランドに近い、海岸沿いのフランドルの人達は、貿易の関係でイングランドに見方をした。
フランスで、イングランドに味方していたのが、ブルゴーニュ派のひと。
で、イングランドと敵対したのが、アルマニャック派のひと。
もともと、それほど、国の概念が薄かった人達は、同じ国の中で揉めていたので、イングランドにおされて、土地を奪われることになるわけだ。
まあ、このあたり、これから、外国からの移民が増えてきたら、日本にも無関係とは言えなくなるから、やはり、歴史は学ぶべきだと思うんだけどなぁ…
日本の場合は、すんでのところで、仲間割れをせずに明治維新に突き進む訳だけれど、さて、これから先は、どうだろう?
日本はともかく、フランスは、シャルル7世がヘタれていた事もあり、学級崩壊状態で、ジャンヌの村は、そんな時代、ぶん取られた土地にいすわるイングランドの襲撃にあったらしい。
イングランド人も、必要以上に襲撃なんてしなければいいのに、そんな事があるから、ジャンヌだって、小さな頃から、イングランド人を何とかしてくれ、と、神様に祈ることになったんだと思う。
で、ある日、天使に言われてフランスを救うことになる。
が、ここまで書いていて、なんだか、おかしいと思う。
だって、どうみても、政治を司る貴族様たちは、それほど、国の概念なんて薄い。
なのに、いきなり、田舎娘のジャンヌが、フランスがどうとか言うのは、不自然な気がする。
なんだか、ジャンヌダルクを有名にしたのは、ナポレオンとか聞いたことあるし、この辺りは眉唾な気持ちになるなぁ。
ここまで書いて思うのは、ジャンヌは、フランスなんて概念で戦ってない気がする。
シャルル7世の母のイザボーですら、フランスすててるし、家臣は、ブルゴーニュとアルマニャックで分離してるくらいだ。
いきなり、田舎娘がフランスを引っ張り出して叫んだって…
ブルゴーニュも
アルマニャックも
フランスのあり方をふまえて戦っているわけで、どちらも自分達の理想のフランスの為に戦っているわけだ。
だから、その下の傭兵や、下級貴族にそんな話をしたって、まとまらないと思う。
考えられるのは、ジャンヌの住んでいた辺りのイングランド兵が、必要以上に略奪などを繰り返し、どうにかしたいと、ジャンヌたちが思っていた場合。
これだと、
「暴れるろくでもないイングランド人を追い出さなきゃ、私、オチオチ結婚もできないじゃない。もう、自分で闘うわ。」
と、これだとなんか、地元の人や傭兵には共感するところも多い気がするわ。
だって、紛争があると、略奪があり、農作業が出来ないから、兵士となって戦う。で、嫁も貰えない。
女の子も、イングランド人を排除して、平和に暮らしたいとなれば、まとまりやすい気がするわ。
だから、シャルル7世を引っ張り出して、奴等を追い出そう!
のスローガンが通ったのかもしれない。
ともかく、そんなこんなで、まとまりだしたフランスは、取られた土地を取り返しだし、母親から、父親が違うと言われ、ヘタれたシャルル7世を天使と共に尻を叩いて王座につけ、フランスは盛り返す…
でも、ジャンヌは、のちにブルゴーニュ派の人間にイングランド人に売られてしまう。
で、処刑されるわけだ。
「あんまり、面白くないね。」
ミシェルは、はっきりと感想をのべた。
「う、うん…」
奈美も後味悪くため息をつく。
なんだか、調べると、昔見た漫画や小説のイメージが、変わって行くのだ。
こんな話だっけ…
大人になると、勧善懲悪の分かりやすい話で、歴史は語れなくなる。
イングランドには、イングランドの言い分があり、
フランスには、いろんなフランスの言い分があるのだ。
人間の私だって混乱するのに、神様が、ジャンヌとシャルル7世だけに贔屓するとは思えない。
では、ジャンヌが見たのはなんなのか?
「でも、チョコレートは美味しいかった。ありがとう。」
ミシェルは、屈託なく笑いかけて家に帰る。その後ろ姿を見送りながら、奈美はため息をひとつついた。