春分5
「あのゲーム…なんかカジマ様にまで不敬をしたらしいわよ。」
作者は眉間にシワを寄せる。
「あのゲームって、例の弥助の、でしょうか?」
私の質問に作者は頷く。
「うん…秋田の『鹿島さま』をかかしとして使ったって騒がれてるんだよ(-"-;)」
作者はため息をつく。
「かかし…ですか…少し、難しい話ですね。
かかしは久延毘古様と言う神様として『古事記』にも登場しますから。」
私はため息をついた。このゲームはまだ発売もされていませんから、作者の情報も正確なものかは分かりませんし、すでに訂正がなされている可能性もあります。
「そうなんだ…でもさ、その前に、この『鹿島様』って、タケミカヅチの神様と縁があるらしいんだよ(-"-;)
タケミカヅチ男神って、鹿島神宮…茨城県の鹿島神宮の主神でさ、鹿島神宮に喧嘩を売るようなもんだと思うと…怖いわよ(T-T)」
作者は渋い顔をする。
「まあ…神社に不敬は、どの神様でも問題ではありませんか?」
私の質問に作者は頭を抱える。
「うん。確かにそうさ、そうだよ。私も、最初は他人事で怒っていたさ。
でもさ、ここに来て、他国の歴史を扱う恐ろしさを実感したよ。」
作者は一通り叫び、そして、深くため息をつく。
「どう言う話でしょうか?」
私の問いに、作者はふて腐れたように話始める。
「鹿島神宮…この名前が登場したときさ、なんか、嫌な予感がしたんだよ…
あそこの…私が聞いたのは茨城県の鹿島神宮なんだけど、不敬をすると祟られるって言われたんだよ。」
作者は渋い顔をする。
「…何か、やったのですか?」
心配する私に、作者は大きく首をふる。
「いや、いや、私は…連れていってくれた人に監視されて、キチッとやれって言われたもん。
バチが当たったと仮定するなら、先輩か、その友人よ。」
作者は話はじめた。
鹿島神宮…公のサイトを読んでみても、それらしい話は見当たりません。
が、『鹿島神宮 怖い』で沢山の検索結果が出てくる…民間の噂になる神社のようです。
タケミカヅチ男神…男の神とわざわざ書かれる、男性的な神様で、戦の神とも呼ばれています。
その事から、現在でも格闘技などの勝負事に携わる方々からの信仰も深い神様です。
「でさ、私の少し上の世代の若い頃は、バイクが娯楽ってところがあってさ、バイトやら先輩に譲ってもらってバイクを乗り回すのが流行ったわけよ。」
作者は昔を思い出すように言った。
「暴走族…とか、でしょうか?」
昭和のバイクと言えば、つい、思い出してしまいます。
「うん。まあ、他にもライダーっていたのよ。
単独で走る『走り屋』とか、ただ、バイクの旅を楽しむ『ライダー』とか、言われる人たちが。
昔は、ネットなんてないから、地方の実在した人や、グループの考え方で若干、意味は変わってくるのよね。
ネットで調べると『走り屋』って、交通規則を守らないスピード狂の意味合いのようだけれど、私の先輩は、走るのが好きな人って意味で使っていたわ。
多分、『ライダー』だと特撮ヒーローみたいで気恥ずかしかったのかもしれないし、私が勘違いしていたから、それに合わせてくれたのかもしれないけど。」
作者はそう言いながら話はじめた。
作者が若かった時代、車が若者の遊びの中心にありました。
特に、地方などでは深夜に遊べる店がある都市部までの移動の意味でも必須でした。
そして、女の子はグループで集まるのが好きで、飲み会などで車を持ってる先輩などに甘えて何処かに連れていって貰う。
そんな事をしていたようです。
茨城県の鹿島神宮に行くことになったのは、偶然のようでした。
湘南や九十九里など、首都圏近くの海岸をみたいとか、そんな夢を語っていた作者たちを会社の先輩が車で連れていってくれる事になったようです。
当時、スキーなどで車中泊などに抵抗の無かった作者達は、その申し出に飛び付きました。
現在では、男が一人で運転し、複数の女の子をつれてドライブすると言うのは…男女平等の精神からは外れているのかもしれませんが、彼は運転が好きで、自分の大切な車を…他の人間に預けるのも嫌だったらしいのです。
ついでに、作者のグループの1人に…気があった、ようなのです。
「首都高?ああ、大したことないよ。」
みたいなマウントを気のある可愛い後輩とその友人に言ってしまうのは、当時のお約束の様なものです。
どちらにしても、ドライブ好きな彼は、一人でも休日になると高速を使って遠出を楽しんでおり、その辺りでも心配は無かったようです。
作者達は夜からの移動に備えて、お気に入りのCDとジュースやら夜食を作り、(あの頃はご褒美扱いだったけれど、現在では手作りはキモいのよね…と、ぼやいてから)可愛らしい服装と、愛想を振り撒きながら、深夜のドライブの準備をしたそうなのです。
高速のインターで休息をはさみながら、若さとドキドキをはさみながらのドライブだったようです。
「まあ、さ、夜は、私らは気にせず寝ていられたわ。勿論、ずっとはねてないけれど、
友達と先輩は、前からいい感じだったし、あの二人は、親を気にせずに話したかったんだもん。」
作者の笑いに甘さがにじみます。
「夜まで語り明かしたい…当時は電話などで家で話していたら、現在でも隣近所に丸聞こえ、ですからね。」
私は笑う。素朴な田舎の青春の一場面が甘酸っぱく辺りを包みます。
「うん。まあ、後部席のこっちも、実際は寝てられなかった気がするんだけど…
幸せそうな、他愛もない会話を聴かされたら…寝てるふりしか出来ないわよね?」
作者は昔を思い出して目を細めた。
それから、気がついたように話始める。
「で、朝方早くに海についた気がするんだけど、道が混み出す前に、すぐに帰る事にしたのよ。
九十九里浜だったかな?広くて、なんか、世話しなかったけど、楽しかったのを覚えてるわ。」
「泳がなかったのですか?」
「うん。九十九里浜って遠浅で、泳ぐって感じじゃないし、海の家がまだしまっていて、泳ぐって感じじゃなかったし、ファミレスのご飯が食べたかったんだもん。」
作者は楽しそうに笑い、続けた。
「まあ、で、時間が少しあるから、と、鹿島神宮に行くことになったのよ。
先輩は、ライダーで車の運転もするから、近くに来ると、ここの神様にお参りするらいしのよ。
有名な神社だし、私達も興味があったから、行くことに決まったんだけど…
鳥居に入る前から、色々、うるさく言われたわ。
なんか、鳥居の前で挨拶するとか、道の端を通るとか、色々。
ここの神様は霊験あらたかだけど、怒ると怖いって真顔で言われた。」
作者は思案するように目を伏せる。
「そうなのですか。」
「うん。まあ、考えると、当たり前のマナーなんだけど、守らないとよくない事がおこるんだって。
今、思い返すと、先輩にはヤンチャをしていた友人なんかもいたようだから、神社に参ろうが、やめようが、事故に遭う機会は大きかったとは思うけれど…
でも、あそこに行くと、なんか、違う、『ピシッ』とした気が流れてる気がするんだよ。」
作者はため息をつく。
「で、それが我々の創作活動ととどう関係するのでしょうか?」
私の質問に作者は深く、深く、ため息をつく。
「考えもしなかったけど、ネットや史実に書いてなくても存在する禁忌ってあるんだって思ったのよ(T-T)
私も初めはゲームの会社を怒ったわよ?
でも、私だって、ルルドとか、ファティマの様な有名なのはわかるけど、鹿島神宮の様な、公式でも認識されていないような、民間の信仰みたいなもん、それの欧州版の法則なんて知らないもん。
鹿島神宮…タケミカヅチ男神とそこに縁の神様…
それに不敬をしたとか噂になれば、神様を信じる人たちも怒るでしょ?
なんか、嫌な予感しかしないわ。」
作者は真顔になる。
「そうですね…でも、そこまで大きな話になるとも思えませんが…」
そう、かかしもまた、鹿島様と深い関係のある神様でもあるのです。ゲームはまだ発売されていませんから、大げさに噂が流れている可能性もあるのです。
「そうだといいけど…ここに来て、ウクライナの件で欧州の国々も戦争に巻き込まれ始めているでしょ?
日本の神様って、基本、何かをしてくれる存在ではないのよ。
タケミカヅチ男神は、軍神。戦う男の象徴よ。
彼らは、規律や約束事を重んじているわ。それを無くしたら、ただの悪党になってしまうから。
逆に、約束や所作を守らない人物も嫌うわけよ。
他国の文化。特に、兵士の誇りや国の文化を蔑ろにする事に疑問を持たない国と、欧州の人達をロシアが認識したらどうなるかしら?
たかがゲームに話題でも、国民性を知る資料にはなり得るもの。
鹿島神宮の噂も、戦いの神の前ですら、まともに挨拶出来ないようなら、これから戦う相手にも不敬や隙を見せている、そんな心の慢心を諌める話だと思うのよ。 平和な世界にいると、なんでも面白おかしく改変とかしちゃうけれど、皆んなが皆んな、それで良いとは思ってないと思い出させる神様だと思うの。
厳しい環境化で戦う兵士にはそれは通じないって事を思い出させる神様でもある気がするわ。
まあ、そうは言っても、私だって、こんなマニアックな事まで調べきれないけどね(T-T)
査読の人って大切ね。」
作者はそう、呟いた。