春分4
静かな冬の夜。
夜の寒さが音もなく忍んでくる部屋
それでも、傍らには愛する人の温もりがあり、
温かな飲み物と幸福で胸が熱くなる夜…
作者はココアを手に私に語りかけるのです。
「梅原猛先生…今年、生誕100年なんだね。」
作者はタブレットを片手に呟きます。
「不思議な廻り合わせですね。」
作者の横で私が相づちを打つのです。
「うん。明智小五郎と同期なんだね…そう考えると胸熱だわ。」
作者は苦笑する。
「そうですね。」
私も作者との想いでと共に1925年に想いを馳せます。
「梅原猛先生、3月20日に生まれたんだって…
それはともかく、日本が神道が廃れない意味が分かった気がするわ。」
作者はため息をつく。
「どう言う事でしょうか?」
私の質問に、作者は渋い顔をする。
「つまりさ、日本の神様は自然神で、災害は宗教に関係なく定期的にくるわけよ。
事情を知らない海外の宣教師に言われて異国の神を拝もうと、拝まなかろうと、台風も地震も来るんだから、それに備えた方が安心に暮らせるもの。」
作者はココアを飲む。
「確かに、土地の災害についてなら、情報量が多い方が有利ですから。」
「うん…1000年周期の大地震とかで、神社の場所だけ被害が少ないとか、そんなエピソードがあると、災害に備えて、個人にその場所を所有させるとか、ありえないもの。」
作者は肩をすくめた。
「確かに、台風はチート魔術で来ない様にはできませんね。」
「台風は来なきゃ、来ないで干ばつの心配があるし、来たら水害…そんな土地で生きてるんだもん。
他にも、山の管理は海産物の発育や、飲み水にも関係してるしね、何かあれば、すぐに問題になるから、神の奇跡なんて、そう簡単に口には出来ないもん。」
作者はため息をつく。
「確かに、我々は面倒な土地に生きていますよね。」
「うん…でも、だからこそ、独自の文化で島国に引きこもれていたんだと思うのよ。」
作者は苦笑する。
「そうですね。海外の文化を吸収しながら独自の文化で生きてこられたのですね。」
昭和の時代を思い出した。
少女の作者にとって、ヨーロッパ人は、皆、上品で憧れる存在でした。
「うん…世界が平和な時は、ね。」
作者は苦笑する。
「世界が平和な時?ですか。」
「うん。世界で扮装があれば、人は動くでしょ?
今も、人が動いて、日本にも沢山の外国人が生活しているわ。」
「世界が豊かでも、人はうごきますでしょ?」
私はバブルの時代の海外旅行に行く日本人を思い出していた。
「確かに、ね。でも、4世紀の世界で人間が長距離を移動するとなれば、何か、余程の事があったと、そう考えられるのではないかしら?」
作者は少し、物思いに更ける。
「『空白の4世紀』でしょうか?」
私の問いに作者は不安そうに笑う。
「うん。子供の頃、聖徳太子の時代から昔は、日本には文字が無かったから、記録がないんだって聞いたのよ。
でも、それって変なのよね?
落ち着いて考えるとさ、仏教を布教したのは、聖徳太子って聞いたけど、それは、最終段階で、その前から仏教を信じた豪族はいたのよね?」
作者が私を見る。
「蘇我氏と物部氏の戦いですか?」
「うん。豪族が信仰するまでは、それなりに長い時間がかかると思うのよ。」
作者は難しい顔で言う。
「そうですね。確かに、政治の中枢を担う人物が、海外の得たいの知れない宗教をいきなり信じたりしたら、下の者は混乱しますからね。」
「うん…二千年の歴史の中で、国教として、はまりこめたのは仏教だけなのよね。」
「まあ…そうなるのでしょうか…。クリスマスは既に国民的な行事にはなっていますが。」
私は複雑な日本人の宗教観に苦笑する。
「まあ、ね。でも、この辺り、相当、面倒ないきさつはありそうな気がするわ。」
「面倒な経緯?」
「うん。新しい宗教は…やはり、人と供にやって来たんだと思うの。」
「そうですね、言語が違うのですから、書物だけでは伝わりづらいでしょうから。」
「うん。現在だって、表向きは日本は神道と仏教を信じていると記させるだろうけれど、実際はキリスト教やイスラム教を信じる人も沢山いるわけよね?」
作者は物思いに捕らわれた様子で私を見る。
「はい。ネットで検索すると、イスラム教を信じる方も20万人を越えたとも、書かれていますね。」
「そうなんだ…でも、普通に日本の宗教を聞かれたら、神道と仏教っていっちゃうじゃない?
昭和の私の情報ですら、不確かな部分が沢山あるんだもん。
6世紀の書物の情報なんて、大雑把で主観的だったと思うのよ。」
作者はため息をつく。
「そうかもしれませんね…」
私も、作者を物語から脱線させる話題のゲームを思ってため息をつく。
ネット時代、自動翻訳、世界配信…
耳障りの良い言葉と共に文明を謳歌しているようで、結局、他国の歴史を知ることなど…否、日本の歴史すら、正確には理解できないものなのかもしれません。