春分3
伊邪那岐命とは、古事記などに記される日本を作った神様です。
この神様は夫婦神で、二人で日本を形作り、そして、国を産む中で妻である伊邪那美命が亡くなってしまいます。
諦めきれない伊邪那岐命は、黄泉の国まで妻を迎えに行くのですが、黄泉の国で出会った妻は一緒に行けないと告げるのです。
そこを強く懇願すると、イザナミ命は、夫であるイザナギ命にこう告げるのです。
「愛しいあなた、そこまで願うなら、私も黄泉神々にお願いに参ります。
その間、どうか、私の姿を見たりしないよう、お約束ください。」
が、イザナギ命はその約束を破り、妻の死体を見てしまうのです。
そこでイザナギ命は逃亡をはかるのです。
醜く腐り果てた姿を見られ、逃げる夫にイザナミ命は激怒をして夫を追いかけるのです。
結局、イザナギ命は逃げ切る事に成功し、黄泉の国から出られないイザナミの命は夫に、(イザナギ命が産み出した)人間を代わりに1日千人殺すと言うのです。
そこで、イザナギ命は、それなら1500人1日に産み出そう。と、答えて別れるのです。
「ねえ、客観的に聞いてると、悪いの夫よね?」
膨れっ面で私に文句を言われても、私にはどうする事も出来ません。
「伝説…で比喩でしょうから。」
そう、この伝説は712年に太 安万侶によって記された『古事記』に書かれたエピソードであり、その原本も既に紛失し、現存するのは写本なのです。
「まあ、『古事記』の話だからね…
聖徳太子の時代の…書き換えられたかもしれない…歴史。」
作者は渋い顔でうつむく。
「そう、ですね。梅原猛『隠された十字架』なんて流行りましたね。」
私は70年代から語られる歴史のミステリーを思い出す。
「聖徳太子の物語だったわよね?私も読んだわ。
あんな面倒くさい話を読めたのって、聖徳太子が謎の人だからよね。」
作者の顔が少しだけ緩んだ。
「はい。ある人は聖人と称え、また、ある人は歴史上、唯一、天皇を暗殺したテロリストと批判する人物です。」
「そうね…様々に調べたわ。この時代、日本が大きく変わる時だったし、日本の歴史の授業って、卑弥呼の時代から急に飛鳥時代に飛ぶのよね。」
作者は思案する。
「蘇我入鹿の暗殺事件で屋敷ともども歴史書などの書類が炎上した…と、言われていますね。」
昭和の鉄板歴史ミステリーに懐かしい気持ちが込み上げます。
卑弥呼の時代(3世紀)から飛鳥時代(5世紀)にかけての知られざる時代を『空白の4世紀』などと呼ぶ歴史好きもいるようなのです。
「うん…私の時代は文字が無かったから作ったとか言われたけど…今はまた、違う説があるんだろうね。
何にしても、4世紀の空白の時代…古墳の時代に何かがあったのは、確かよね。」
作者は物思いにふける。
私は何か、暖かい飲み物を作るために立ち上がった。