カクテル2
「パリのオリンピックかぁ…そう言えば、2024年はパリオリンピックだったわね…」
作者はため息をつく。
「そうでしたね?」
くらい顔の作者が気になります。
「なんで…弥助のゲームを作った会社、滅茶苦茶やるんだろう?」
作者は叫ぶ。
「は?」
「あれ、フランスの会社なんだけどさ、神社が破壊できる仕様なんだよ。」
作者は深くため息をつく。
「神社の破壊…日本では考えられませんね。」
少し、作者の不安が理解できてきました。
「うん。海外のメディアの人の中には、ゲーム会社より、それをやったプレイヤーを批判しろ、とか言う意見もあったけど、
設定は『伝説の侍』なんだから、『侍』が命をかけてもしない事、タブーは出来ないようにしておく必要があるじゃない?」
作者はいつになく怒っています。
「そうですね、『女王』が吉原にいたら可笑しいですし、『警官』がマフィアの事務所で楽しげにはしませんからね。」
と、言いつつ、物語では意外な展開もあり得る事を思い出す。
「うん。ここに来て、他国の宗教の人達が小さな事で神経質に非難する気持ちも理解できてきたよ(-"-;)
日本語で『神』と翻訳しても、本質は世界各国違うんだよね…
日本の神様は『祟り神』が基本なんだよね…
なんの罪もないのに、酷い目にあわされて暴れる神様を祭り敬い、祟りを回避する…みたいなさ。まあ、厳密にはもっと難しいんだろうけど、私みたいな一般人のイメージってこうだったのよ。
最高神 天照命ですら、弟が暴れて岩戸に隠れたところを引っ張り出されてるし…
日本の神様って、太陽を中心に自然神が中心だから、『祟り』って、災害とか疫病が多いんだよ…
誰が1人がやらかすと、皆にトバッチリがまわるから、日本人は宗教戦争とか、暴れる前に神様のご機嫌取りを皆で考えるんだよね…(>_<。)
で、やらかした人物の批判の前に、不安が込み上げるのよ。」
作者はカクテルを飲み干した。
「そうですね。日頃、科学的な思想で生きてるようでいて、日本人は神様を信じているのですね。」
私は作者の肩を軽く抱いた。
「そうね、確かにね、外国人は日本の神様をただの『設定』だと思ってるのよ。
今までは、日本の神様が他国に影響する話しなんて無かったけどさ、
日本の神様は、科学の世の中でも、ちゃんと機能してるんだよ。」
作者はため息をつく。
「どう言うことでしょう?」
「神道の考え方で、日本人は社会を動かしてきたからだよ。
嘘をつかず、勤勉に、丁寧に、相手を思いやる。
災害が多い、この国で発達した宗教。これを後の侵略者が潰せなかったのは、神社を潰すと、ブラックな仕事を無言で誠実にこなす信徒もまた、壊した宗教と共に消えて、やがて災害が彼らを飲み込んだからだと私は、考えるわ。」
作者はいつになく真剣に言った。
「確かに、信頼できる品質の商品を産み出してきたモチベーションは、日本人の考え方、心のあり方に由来するかもしれませんね。」
作者に、1人の名もない日本人を見た気がした。
それにしても…何をそんなに不安に思うのでしょう?
「日本人が深層心理で信じる神の1つは、災害とも言えるわけよ。
火山、地震国の日本では、山の神様は定期的に『噴火』存在であって、それは100年とか、千年のスパンで起こる…本当に神様の目線みたいな話なのよ。
そして、それに備えて様々な活動をして来たのよ。例えば、地震に強い家だったり、素材を考えたり…都市のインフラの強化、災害時の木材や資源の確保。
これらを100年単位で浮き沈みする政府ではなく、神様として別に考えているわけよ。
まあ、普段、私だって、そんな風に定義立てては考えてないけれど、500年とか昔の人が、なぜ、そこに祠を建ててタブーをつくるのか?
ここには、500年先の災害に備えてのメッセージであったりもするわけよ。
だから、ほぼ、繋がりのなかった昭和では、神様は日本だけにしか影響が無いものと言う認識だったけれど、日本国内ではちゃんと存在するものだったのよ。」
作者は思い出話をするように呟いた。
「それは…現在でも有効なのではありませんか?」
作者の不安を感じて、私は深く彼女に寄り添いました。
「さあ…外国人が増えて、日本人同士でも神様についての考え方が違う気がするもの。ついでに、外国人が日本の歴史で遊ぶ日が来るなんて考えなかったもの。」
作者は苦笑する。
「確かに、そうですね。」
かつて、海外の日本のイメージで無邪気に遊ぶ作者を思い出しました。
「日本の神道の肝は、一途に世の中の平和を祈る信徒の存在と行動よ。
そんなもの、海外の人達は関係なかったと思うわよ?神道なんてアニメのモチーフくらいに考えていてね。
でも、日本が滅びたら、様々な世界のインフラにも影響が出てくると思うのよ。」
作者は不安そうに天井を見つめた。
「そうですね。海外支援から、様々な精密機械の部品、運用…日本と言う母国が無くなったら、確かに、それらには大きな影響が出てくるのかもしれませんね。」
私は作者の横で、彼女の不安に寄り添った。