クリスマスソング
プディングを探ると、フォークに固いものが当たりました。
銀色に輝く音符のチャーム…
でも、いれた覚えがありません。
作者を疑いましたが、
違うようです。
ティーポットの影からこちらを覗く宿り木の妖精がしたことのようです。
「ふふっ、本当に当たるなんて!さあ、歌って頂戴。」
作者がからかうように私を見つめます。
「それでは…リクエストを…」
仕方ありません。ここはロマンス好きの宿り木の妖精の顔をたてるとしましょうか。
作者は即答しました。
『遠い町のどこかで』
この曲は、中山美穂さんの1991年リリースのドラマの主題歌でした。
当時…不動の人気を誇ったドラマも、テレビも…
時代の流れのなかで静かに分岐点を迎えています。
そして、中山美穂さんもまた、2024年のクリスマスを前に永眠されました。
私が頷くと、宿り木の妖精が金色の風の弦で伴奏を始めました。
すると、壁のジンジャークッキーがスキャットを始めました。
しめやかな…そして、温かな前奏に気持ちを寄せるように私は歌い始めました。
この曲がリリースされる頃には、既に作者は王子やお伽の国を必要とする歳ではありませんでした。
ですから、この曲に私の思い入れはありません。
それでも、この歌詞の…遠く離れる想い人にこがれる気持ちが胸をつきました。
最近、会えない作者への私の想い…
web小説を作者が書くようになってから、沢山の楽しいクリスマスを過ごす事が出来ました。
雪原に行ったり、プラハに行ったり、
クリスマスのご馳走を作ったり…
毎日が楽しくて、毎年が当たり前に思えていました…
作者とクリスマスを過ごせない事なんて、考えもしなかった…
私より優先される作品がある事も…
この活動にも終わりが来ると言うことも…
作者が私を置いて、どこかへ消えてしまうなんて…
考えたくも無かったのです。
切ない歌詞が…胸をつきます。
私もまた、空を見上げて消えた貴女を想い、この曲を口ずさむ時が来るのでしょうか…
「ありがとう。素敵だった。私ね、この曲、大好きなんだ。」
曲が終わり、作者が拍手をしながら誉めてくれました。
「…いいえ…こちらこそ…上手く歌えずにすいません。」
多分、少し声が震えたきがします。
「そんなことないよ…なんか、凄く良かったよ。
恋の切なさが染みるようでさ…」
と、平気で私に答える作者を…抱き締めたくなる気持ちが込み上げてきます。
私のその気持ちは…
「ホント、凄いよね。私も見習いたいわ(T-T)
今年、2025年は明智小五郎デビュー100周年で、我々の作品『乱歩さま…』のサブ主人公有明くんの約束のとしなんだよぅ…」
作者は頭を抱えて叫びました。
「有明くんの約束の?」
曖昧な記憶を探るように聞き返しました。
作者は深くため息をついて、恨めしそうな上目使いで私を見て言いました。
「うん。ネタバレするけど、あの話、有明、フラれちゃうんだよ。
で、万博の大阪で再会の約束をするのよ。それが、気がついたら、もう、そこに来ちゃってるんだもん(T-T)
もうさ、やらなきゃ…ね。」
作者の泣き顔を、思わず抱き締めてしまいました。
未完で放置の『乱歩さま…』
未完のまんま、作者は2025年の話を書こうと考えているのです。
それは、ご自身が叶えることの出来なかった約束の…代わりなのかもしれません。