再会
ああ…この丸い頭の形…やっぱり、これは私の作者…
私は、自分の胸に抱え込むように作者の頭を抱き締めていました。
猫を飼っている方が愛猫の頭の臭いを嗅ぎたくなる気持ちが少し理解できる気がしました。
懐かしい香り…正しく私の作者…
と、ここである事に気がつきました。
「少し…お痩せになりましたね?」
私は作者の頭を名残惜しくも胸からはなし聞きました。
「…今、アンタが抱いていたのは頭でウエストじゃ無いからね!そう言うギャクは今はいらないわよ。」
ふて腐れたその顔もなんとかわいく見えるのでしょう。
「おや…頬がこんなに冷えて…さあ、早く、お風呂にはいってください!」
私は慌てて作者をバスルームに連れて行きました。
「お風呂に入らなくても…いい気がするんだけど。」
脱衣所でぼやく作者を無視してバスローブを棚から出します。
幸い、お風呂場はクリスマス前に掃除を済ませましたし、温かいお湯がいつでもわき出ているのです。
入浴剤にはエーデルワイスを…花言葉は「大切な思い出」まあ、そんな事はこの作者にはどうでもいいのでしょうけれど…
「いいえ!しっかり体を清めていただかなくては!
今年、初めてお会いするのですからっ。」
私の強い言葉に作者は驚いて、
「それ、普通は自分がするもんで来客にさせるもんじゃないと思う…」
「何かいいましたか?」
ドアノブに手をかける手前で私が聞くと、作者は不満そうに口を尖らせながらも
「別になんでもない…」
と、呟いて面倒くさそうにコートを脱ぎ始めました。
さあ、急がなくては!
長く一人にされて、屋敷の中が冷えきってしまいました。
ああ、何もかも動かさなくては!
暖炉が部屋を暖めるまではもう少しかかりますから、それまでに体が温まる飲み物を作らねば。
スイーツも沢山ストックがありますが、まずは、解凍しなくては!
と、ここでクリスマスプディングが棚で出番を待ちくたびれているのを思い出しました。
クリスマスプディングは英国でクリスマスに食べられるケーキです。
様々な歴史を経て、ビクトリア女王の時代に現在のスタイルにおさまるのです。
昨年は、19世紀の物語を書き始めたばかりでしたから、参考に作ってみたのです。
ああ、毎日、あれに特製のラム酒をかけて熟成させておいた自分を誉めてあげたい気持ちです。
これからプディングを温めて、ブランデーのシロップを作らなくてはいけません。
暗くした部屋で、ブランデーの青い炎に包まれたケーキを思うと胸がワクワクします。
飲み物は紅茶を。
ビクトリア女王にゆかりのあるロシアンティを取って置きのダージリンで作りましょうか。
ああ、なんて素敵なのでしょう。