コンタクティ23
「この本、なかなか面白いわよ。第二部では、聖杯とエチオピアの伝説を合わせて書いてあるわ。」
作者はハンコックの著書『神の刻印』から目をはなした。
「そうですね。『パーチバル』我々も探しましたね。聖杯を」
私は、作者と『ダ・ヴィンチコード』の世界を旅した事を思い返す。
それにしても、西洋人は、聖杯伝説がお好きなようです。
「そうね、ここに来て、私の話にも関係が出てきたわね(-_-;)
まあ、西洋の冒険ものの基本だから、なんか、出てくるんだろうけれど…
まさか、エチオピアの歴史に関わってくるなんて、面白いわね。
この本で取り上げられている『ゲブラ・ナガスト』と言う本、なんか、本当にあるみたいね。」
作者は感心していますが、提示の資料が存在しない方がおかしいのです。
「『ゲブラ・ナガスト』は、作者不明の古エチオピア語の本のようですね。
ソロモン王の時代の伝説的な伝記のようですが。」
「うん。モーゼからは随分と離れちゃうけれど、まあ、弥助と聖遺物を関連付けられるわね。」
作者は嬉しそうに笑う。
「しかし、簡単に信じると痛い目にあいそうですよ。」
そう、『ゲブラ・ナガスト』は、エチオピア王家の正統性を主張する為に作られたと考えられる書物で、書かれた日付、作者共に謎のある代物です。
「そうね。この本の数奇な運命を考えると、歴史の大切さを感じるわね。」
作者はこう言って、話始めた。
『ゲブラ・ナガスト』が正確にいつ、書かれたのかは不明です。
13世紀、5世紀、17世紀、など、色々な説があり、アクスム王家からと言う説、エチオピア帝国からと言う説…
しかし、いつの時代においても、王の血筋の正統性を証明するものであったようです。
それが覆されるのが、テオドロス2世の出現によってです。
彼は、下克上によって…ソロモン王の血筋でなくても、実力で王位についたのでした。
が、イギリスと戦うことになり、敗北。
その時、イギリスに『ゲブラ・ナガスト』は、もって行かれるのです。
「なんかさ、そうやって国の成り立ちの文章をその国から持ち出して、自分達が奪うと、好きなように改変や解釈されても、誰も分からなくなるのよね。
特に、昔から住んでいた人を土地から追い出して、全く、関係ない人、その本をを入植させたら。
日本でも、藤原不比等が、それをやったとか噂があったけど、たかが本の話だけど、されど本の話なんだわね。
ある意味、日本は天皇家が続いてきたけれど、これからはどうなるのかしらね。」
作者はため息をつく。
「そうですね。言葉もわからない、ルーツも違う人達が国の人口を多くしめたら、変わって行くのかもしれませんね。」
私の言葉に、作者は悲しそうに笑った。
「そうね、はじめは、イギリス人に文句を言いたくなったのよ。
こうやって、関係ない土地に争いをもたらせて、色々と画策しているみたいで。
でも、そのイギリス…ロンドンの人口比も変わって…イギリスの王家も、そうそう安泰とはいかないのよね。」
作者はため息をつく。
「まあ、日本は…例え、外国人が増えても、そう簡単には代わらない気がします。」
「どう言うこと?」
「戦国時代の少し前にも、大陸から、沢山の人間が戦いの為に現れましたし、人は色々な所からやって来たでしょう。けれど、結局、皇族にはなりたがりませんでしたから。」
「そうね…源氏も、家康も…マッカーサーも、結局、皇室を破壊はしなかったのよね…
日本人をまとめるのって、大変だもん。」
作者は遠くを見る目で窓の外を眺めていた。