コンタクティ22
平家の隠れ里…
源平の合戦で負けた平家の一族は、散り散りに逃げ延びました。
執拗な源氏の追求から逃れるように、山の奥へ、奥へと…人里から離れた場所に、新たに人里を開いた…と言う伝説です。
確かに、人は逃げ延びる場合、敵の少ない、知り合いのいる場所を頼って行くでしょう。
しかし、モーゼは逃げた訳ではありません。
「そんないい加減な話、大丈夫でしょうか…」
少し、作者の暴走が気になります。
「だから、書かないから良いのよ。今、考えているのは余白の部分。超古代文明好きのおじさま達の舞台よ。もし、本文が批判されたときに発動するトラップみたいなものよ。」
まあまあ、とでも言いたそうに作者は私を見る。
「読者をトラップ扱いなんて…いただけませんね。」
全く、作者は気持ちが乱れると、言葉が乱暴になるので心配です。
「だからぁ…私は、書かないんだってば!
これは設定。それに、大して読む人いないし、人の作品で歴史推理ショーを披露するのは、読者と言うより、トリックスターだわ。
私はね、他に、文学部の未完も抱えてるんだから、書いてるの、学生として考えてくれる?
文学部なんて、地味な部活をド派手に魅せる…そんなことも考えないといけないのよ。」
作者は膨れながら文句を言う。
「つまり、地味な文学少女を助ける…謎のインフルエンサーみたいな話でしょうか…ふふっ。確かに、面白いですね。」
ああ、21世紀のヒーローは、仮面ではなく、IDで姿を隠すのですね。
「まあ、それは置いておくわ(>_<。)もう、さきにこっちを何とかしたいし。」
作者は呆れたように私を見る。
私は、すました顔でアイスコーヒーをいれる。
「とにかく、私、ここで、モーゼと神様のいさかいの納得いくエピソードを発見した気がするの。」
作者は嬉しそうにアイスコーヒーを見つめていった。
「あまり、変な事を言わないでくださいよ。」
私は、不安になりながら作者を見た。
「あら、カトリックの人って、わりと異教徒の素朴な質問に答えてくれるわよ。
それに、前から謎だったの。
モーゼって、政治の関係で親に捨てられ、エジプト王家に育てられ、人を殺してしまい、砂漠に逃げた過去があるのよ。」
「『出エジプト記』ですか。」
「うん。で、度々、神様に頼まれるんだけど、拒否し続けるのよ。考えると…凄いわよね(-_-;)
普通、神様は人に頼むと言うより、命令するじゃない?
で、何度も断って、出来ないって言ってるモーゼを家族も使って担ぎ出してよ、苦難の末に、約束を果たしたのに…一度、神に背いたから、楽園にいれないとか、酷いと思ったの。」
「そうですね…」
「ねえ、どんな事をモーゼはしたと思う?
ある意味、モーゼは凄いわよ。いつ、やったかは知らないけれど、自分は入れない楽園に、皆を連れて行くんだもん。
会社員に例えるなら、退職金が貰えないのを知って、なお、会社の為に仕事をするようなもんじゃない?」
「会社に例えなくても…」
作者の素直な顔が、私を複雑な気持ちにさせます。
「まあ、さ、普通なら、口喧嘩したところで、『ああ、分かったよ、辞めてやるよ、こんな役』とか、悪態ついて仕事を放棄するじゃん。」
そんな子供のような顔でマジレスしないでください。
「人徳…ではありませんかね。神様が選んだ聖人なのですから。」
無難に答えました。
「人徳…確かに、切れやすい人物は神様は選ばないわよね…
私、考えたのよ。なんで神様はモーゼを約束の地にいれなかったのか…
モーゼが神様に『この連中は、また、やらかして国を滅ぼすに違いないから、もっと、厳しくしつけないといけない。』と、言ったんじゃないかな?」
「は?」
なんか、頭痛がしてきました。
「だからぁ、聖書の神様って甘いと思うのよ、40日も待てなくて、牛の祭りをしちゃったり、言う事きかないもん。
モーゼは、その辺りを心配して、楽園が滅びた時の事を考えたんじゃないかしら?
色んな事があったけれど、結局、ソロモン王の時代で衰退するんでしょ?
モーゼの心配は当たったって事じゃない。
で、皆と別れたモーゼは新たな新天地へと1人、旅に行くわけよ。
どう?辻褄が合うでしょ?」
作者はどや顔をして私を見ます。
なんだか、かわいいので、私はそれで構いませんが、ネットでそんな事を話したら、馬鹿だと思われてしまいます。
ため息がこぼれました。
「それは、無理ですよ。」
「なんでよ?モーゼは、楽園につく少し前に皆と別れて行方知れずでしょ?前に、漫画で見た気がするよ。」
作者は自信満々です。
仕方ありません。旧約聖書を取り出しました。
「それは思い違いです。モーゼの人生は聖書に亡くなるまで書かれていますよ。」
「はあ?」
作者は急いで聖書を手にする。
「『申命記』に書かれています。
神様とのいさかいの原因についても。」
私はそのページを開いた。作者は黙って読み始める。
しばらくして、作者は深い溜め息をついて、私を見た。
「ええっ…Σ(´□`;)なんか、モーゼの民って、結構、自由人で怒られてるし、戦争するし、大変だよね…
なんかさ、神様の方が、連れてきた民を信用してない感じだよね(T-T)
水不足の時、モーゼに水を出せって騒ぎが起きて神様が怒ったみたいだよ。で、アロンとモーゼは約束の地に入れなかったんだって。
なんか、子供の頃に見た紙芝居やアニメと違うわ。」
作者は深々とため息をつく。
「大人になったのですから、聖書を読まれたらよろしいのに…」
「そうだね…一次資料って、本当に大事だね(T-T)
ついでに、ベルフェゴールのゆかりの土地で葬られたんだね…」
作者は遠い目で窓の外を見た。
聖書によれば、モーゼはベト・ペオルの近くの谷に葬られた…と、記されています。