コンタクティ21
「かえすがえすも、この本から話を盛ればよかったのにって、腹立つわ。」
作者は『神々の刻印』を片手にボヤく。
「まあ、人には人の色々がありますから、我々の話を考えましょう。」
私は笑う。
「普通ならね、でも、これだけ問題になると『侍、弥助』を皆が使えなくなったじゃない!」
作者は膨れっ面で睨む。
確かに、ネットでは、弥助の侍問題でわいています。
「でも、貴女の弥助は侍では無いのでしょ?」
私の質問に、作者は諦めたようにため息をつく。
「そうよ、侍では弥助が使えなくなるから、それ以外の弥助で新たなミームを作らなきゃ、いけないもん。
ついでに、自分の話にも関わってくるから、なんとか頭を整理したいし。」
作者はため息をつく。
本当に…色々な問題で創作活動は止まるのです。
「では、話してください。貴女の思う弥助の物語を。」
私の言葉に、作者は気持ちを変えて話はじめた。
「全く、黒人のカッチョいい話を考えるなら、絶対に『神々の刻印』を読むべきだったと思うわ。
とくに、テンプル騎士団と聖杯と日本を絡めるなら、侍…軍人ではなく、ただの寺男の方が扱いやすいのに。」
作者は口を尖らせる。
「確かに、旧約聖書の聖人は、羊飼いや、漁師など、第一次生産者が多いですよね。寺男は違いますが。」
「軍人が聖杯を手にすると、国取り物語になるから、血が流れるのよ。皆んな気がついてないけれど、弥助が本当に日本で最初の黒人の侍なら、最初に日本人を大量に虐殺した人物ってことになるのよ。
これ、史実扱いが可能なら、雰囲気が悪い方に向かった時、虐殺者として扱われるわ。そこが嫌なのよ。
光秀が外交と、弥助を思って無関係である事をわざわざ記したとしたら、そも気持ちも無にするし。
物語としても、キリスト教は、人殺しは基本、許さないし、聖杯なんて探すなら、気のいい寺男で、子供や学者を連れて旅をする方がエンタメ的にはよかったのよ。」
作者はため息をつく。
「エンタメ…ですか。」
「そうよ、エンタメ!もう、史実がどうたら…とか、そうゆうのは、空想科学、史学のおじさま達の役回りとしてとっておくのよ。それで、たんたんと本文は作って行けるの。昔は、映画や夏アニメの前に、ドキュメンタリー風味の関連番組や雑誌が出たじゃない?
最近、あれがないのよね(´ヘ`;)寂しいわ。」
「確かに、映画の前とかに、スペシャル番組がありましたね。」
私は、ミステリーまがじん『みぃ・ムー』を発売日に自転車で買いに行く作者を思い出しました。
昔は、雑誌の裏面の予告が情報源で、1ヶ月、次の雑誌の発売日まで、短い予告文に夢想したものです。
「うん。あの部分の余白を作るのよ。
本来、作品はフィクションで間違いや飛んでもエンタメ、でも、実は…が、楽しかったのよ。 」
作者の照れ笑いに、少女の日々が思い出されます。
「まあ、今は、あまり人気が無いのでは有りませんかね…ドキュメンタリー風味の番組。
夏の怪談も減りましたし。」
お茶のお代わりをいれました。作者は嬉しそうに一気に飲み干します。
「そうね、でも、今は、ネットの動画サイトがあるのよ?
知識系のチャンネルも多いし、アニメ関連の史実、キャラ説明は人気よ?
それに、地上波が取り上げない、地味に人気のテーマは、ご贔屓を作るのに良いテーマよ。
作品が人気なら、自分のサイトも関連で『おすすめ』されるじゃない。まあ、そこまで人気のラノベを作るのがぁ…難しいけどね(>_<。)」
作者は叫ぶ。なんだか、笑いたくなってきました。
「では、頑張って、人気ラノベを作ってください。」
「……。夢の中なら無双できるけれど、現実は厳しいわ!
まあ、ともかく、史実とか、誤字とかは、外野でやってもらうわ。」
叫んじゃって…作者の謎の自信はなんでしょうか?
「誤字は…御自身で訂正された方が良いと思いますが。」
と、さりげなく言って睨まれました。
「それにしても、エチオピアには、土着のユダヤ人がいるそうよ。『ベタ・イスラエル』と言われるらしいけれど、ユダヤ文明の影響があるみたいなの。
西暦1年辺りにローマ軍に追われたユダヤ人が、原住民をユダヤ教に改宗させて現在に至る…みたいなのよ。エビデンスは無いけど。」
作者はちゃっかり、話題を変える。
「エチオピアは、アークの伝説と無関係では無い。と、言いたいのでしょうか?」
なんだか、面倒になる話にため息がこぼれる。
「さあ…それは、私達の『とりぶん』じゃないわ。
私達は、そんなエピソードから話を広げるのよ。
別に、人間に教わる必要も無いし、役目を終えたモーゼが立ち寄っても良いわけよ。」
作者は面倒くさそうに言葉を投げる。
「モーゼが…ですか。」
ため息が…本当に、その設定で大丈夫なのでしょうか。
「なに、驚いてるのよ?別に、想像だけなら、設定は、広げてみないと…」
「でも、現地の方たちは、ソロモン王との関係を信じているみたいですよ?」
「別に、ソロモン王の時代より昔だし、矛盾はしないでしょ?
平家の隠れ里の伝説だって、昔からのゆかりの土地みたいなのもあるじゃん。
逃げのびるときは、知り合いがいるとか、土地勘があるところへ逃げるでしょ?」
作者は少し、うろたえながら、シドロモドロと答えた。