コンタクティ16
「グラハムハンコック先生の著書『神の刻印』をベースに話を作るわ。
あの話が炎上した理由の一つが、数年の滞在しかしていない外国人をあたかも、択一した侍に仕上げようとしてるにも関わらず、ろくな下調べもしていないから、主人公の弥助がモンスター化した事よ。
そして、アフリカ系黒人の物語を欧米系の黒人文化で描いていて、ヒップホップのBGMについては、弥助の出身国とされているモザンビークの人からの批判もネットで見かけたわ。
この辺りを修正するために、史実に近いモザンビーク出身の弥助、
タイムトリップした日本人の黒人少年…偽りの弥助の2人をダブルキャストで登場させるの。
現在、人気の設定を現代人の黒人少年が演じることで、フィクションだと客に理解させられるし、もっと好きに作れるから。」
作者は苦笑する。
自分の物語の世界を、楽しむような苦笑…
「ラノベ…と言う感じの設定ですね。
現実の人物と、タイムリープの少年…昔からよくある設定で、それでいて、今、ど真ん中の話題のキャラのダブルキャストですからね。芝居になったら、さぞかし、楽しいでしょうね。」
私は、全く違う2人の弥助を演じる役者を思った。
戦国時代と言う設定なのだから、殺陣などを考えると大人の方が映えますが、どうしても、現代人の弥助が悪役化しそうです。
「そうね…この夏に、10万字、耳を揃えて発表できる高校生の黒人の子がいたらね(>_<。)
でも、時代劇は簡単じゃないのよぅ。」
作者はため息をつく。
「そうですね。」
私も、今までの活動を思いながらため息をついた。
「ま、でも、サクサクと話をするわ。
私は、弥助は宣教師に連れてこられただけの、気の良い黒人の青年説でいくわ。
エビデンスは無いけど、宣教師が連れてきたんだから、キリスト教の教えを理解できる人間だと思うのよ。そうじゃないと、勝手に盗んだり、戒律破りの悪い事を現地でしていたら、日本人に文句を言われちゃうでしょ?」
作者の言い方が、まるで近所の噂話のようで笑ってしまいます。
「確かに、キリスト教の宣教に来ているのですから、最低限、日曜のミサには参加しませんと、様にはなりませんよね。」
「そうでしょ?宣教師が必死に慣れない日本語で神様について話しているのに、日傘を面倒くさそうに持って鼻をほじったりしていたら、皆、そっちを見ちゃうもん。」
作者は嫌な顔でボヤきますが、私は、その姿に笑いが込み上げてきました。
「笑わないでよ。真面目な話よ。
命がけて、地球の裏側まで宣教に来た、アレッサンドロを思うと、肌の色が黒いから、大黒天だと持ち上げられた…なんて、バカな噂は消してあげたいわよ。
これについては、エビデンスが無くても、キリスト教徒の人は、賛同してくれるはずよ。
モーゼが十戒を授かった日から、偶像崇拝はしないって約束したんだもん。
自ら連れてきた黒人奴隷を…異国の神として崇められたりしたら、それは、命がけで止めるでしょ?
それに、私も、信長をそんな馬鹿っぽいキャラにされたままなんて腹が立つわ。
信長は、神社系列の家系のようだけれど、無心論者の1面もあって、だからこそ、比叡山の焼き討ちなんて残酷な事もやってのけたんだと思うのよ。
ふざけたんじゃなきゃ、ね。
ついでに、大黒天の信仰は、東日本で多くて、西日本は恵比須信仰の方が多かったって、教えられたわよ?私は。
信仰って、その地の生活や、思想にも関係が出てくるし、変な説は、白黒はっきりして欲しいわ。
信長が、人間を神に奉るなら、自ら以外、あり得ないと思うのよ。うん。」
作者は少し怒ったように早口で言った。
織田信長は、人気の武将ですから、力が入るのでしょうか。
「まあ、噂ですし…ハンコックさんの説も、失礼ながら、エビデンスは無いようですよ。」
私はタイミングをみて、作者に冷や水を浴びせる。
「そうね、確かに、でも、夢は、あるわよ。
今回の炎上は、現地とキャラへの愛が感じられないのと、ユーザーへ、何を伝えたいのか分からないのが問題なのよ。
私だって、ノストラダムスをはじめとして、エビデンスの無い色々に騙されてきたわよ?
でも、そこには…色々とあっても、魅力とロマンも確かにあったのよ。
ゲームのシナリオはわからないけれど、ラノベとして描くなら、子供に夢を、大人には知識を…の姿勢は必要なんだと思うわ。」
作者は過去を思い出すように、複雑な表情で重々しく言った。
「そうですね。子供は、沢山の夢を見て、騙されて、考えて、大人になってもらいたいですし、
保護者の皆さんには、子供達に現実を伝える役をお願いしたいですから。」
私は、思春期の小生意気な作者を思い返していた。
当時、西洋の知識をよく知る大人は少なかったと思います。
時代が目まぐるしく変わる中で、作者もまた、親の言う事を聞かない、頑固なところがありました。
あの頃の自分に、作者は何かを伝えたいのかもしれない…そんな風に思えました。