コンタクティ15
「呪い人形…そうね、しかも、人形をして動く…
魂の無い人形に…人間の欲望を入れ込んで具現化したら…どうなるのかしら?」
作者は物憂げに空のグラスを見つめる。
私は、冷たいアールグレイをグラスに注いだ。
「ゲームの配信が始まったら、批判が増える…と、言いたいのでしょうか?」
私の質問に、作者は少し考えて答えた。
「そうね…件のゲームがリリースされて、その動画配信がされると、プレイヤーの人間性が滲み出て、いつもは閲覧しない人まで視聴すると、ネットも盛り上がるとは思うわ。
でも、今回は『念』のようなものが、人形を目指して集まってくる…そんな感じがするのよ。」
作者は言葉を選ぶように言った。
隣で私は、アールグレイを飲む。
「念…怨念みたいなもの、でしょうか?」
「怨念と言うか、なんか、『虐げられしもの』と言う感情かしら…
私、初回の動画で、あからさまにひ弱な日本人が、戦のルール無視で無双する黒人に倒されて行くのを見ていて、昭和の漫画を思い出していたわ。
昔は、悪の組織に不本意に改造されて人を殺すマシーンに変えられる設定が多かったもの。」
作者の言葉に、ブラウン管の向こうで両手を挙げてファイティングポーズを取る悪役将軍を思い出しました。
「確かに、特撮ヒーローものの敵キャラは、武者の格好をしていましたね。」
「何、笑ってるのよ。もう。確かに、そうだったけど…
その物語の背景には、太平洋戦争に徴兵された人達、反戦の願いがあったと思うのよ。
制作者の意図はともかく、そんな風に我が家では受け止められて定着したわ。
戦いたくなかった。
関係ない人達を操られるがまま、殺めてゆく悲しみ…
そんなものを含みながら、日本のエンタメは昇華していったと思うの。
傭兵として連れてこられた黒人傭兵が…現地の人間を無感情に殺してゆく…
ここに、彼への怒りより、そんな事をさせている人間…に怒りを感じるし、ひいては、太平洋戦争の悲惨な思い出を呼び起こすのよ。」
作者は暗い顔になる。
「黒人の武者…ですよ?」
少し心配になりながら聞いた。
「そうね、東南アジアのイメージの人物に…次に、ベトナム戦争について語るアメリカの黒人のドキュメンタリーを思い出したわ。
80年代には、黒人の人種差別について、色々と語られた中に、貧乏な黒人が特に、ベトナム戦争の戦場につれて行かれたと、そんな話が流れていたもの。
今となっては…この記憶すら、正しいのか否か…わからないけれど、
悲惨な動画に、そんな事を思い出す人も出てくると思うのよ。」
作者は悲しそうにグラスを見つめる。
私は、なんと声をかけたら良いのか迷いました。
「では、やはり、この話はやめた方が良いのではありませんか?」
しばらくして、私が、口を開いた。
「いいえ、この話は、誰かが書いて修正すべき話なのよ。」
作者はキッと空を見上げた。
「誰か、ですか?」
「うん。それは、日本に住む、黒人の血を引く学生よ。侍でない弥助を魅力的に書き上げられたら、一発逆転があり得る話なの。」
作者はそこで穏やかに笑う。
「黒人の学生の…一発逆転ですか。」
私は、夢見る作者を心配になりながら見つめた。
この件は、とてもデリケートで、既に、政治の問題にもなり始めたので、発言には注意が必要です。
「うん。私達はラノベ作家なんだから、物語で勝負するべきなのよ。
とにかく、もっと、魅力的で楽しい話を作る事を考えるのが正道だと思うの。」
作者が笑う。
「まあ、確かに、それはそうですが。」
「結局、皆、リアルな黒人のヒーローが見たいんでしょ?だから、作者は黒人じゃなきゃいけないのよ。
黒人の子供が、素直な気持ちをのせて、正しい弥助像を使って、面白い物語を作るのが、一番の解決法なんだと思う。」
「それは理想論ですよね?」
「うん。そうよ。私の独りよがりの理想論よ。
でも、学生の文芸部の話も作ってるんだから、そう言うのも考えないと。」
作者の言葉にため息が出ました。
確かに、これからの学園ものには、多国籍なネタも必要になるのかもしれません。
「本当に…で、グラハムハンコックさんの話が登場するのですか?」
私は、呆れながらも作者の話に夢中になるのです。
そして、おかしな方向に話が向かわないように祈るのです。