コンタクティ15
「確かに、違ったわよ…でも、大まかに似てくるなって思ったから、パクりとか言われる前に何か書いておこうと思ったんだ。夏ホラーも書こうとしていたから。」
作者はそう言ってレモンパイを頬張り、うまいと呟く。
「本当に…そうやって欲張るから、うまく行かないのですよ?」
アイスティーのお代わりをいれながらため息をつく。
「だって!」
と、作者は叫んでアイスティーを一気飲みした。
「だって、絶対に、面白いネタだって思ったのよ!
隠密ヤスケ。」
「隠密ヤスケ…ですか…」
また、長くなりそうな未完の匂いがぷんぷんしてきます。
「うん。あの人たち…参考にする資料を間違えたのよ。」
「随分と自信満々ですね?」
ため息がこぼれます。
「うん。この場合、参考にするのはグラハムハンコック先生よ。」
作者は嬉しそうに本を見せます。
「グラハムハンコック…確か90年代に話題になりましたね。」
グラハムハンコック
イギリスの作家で、90年代日本でも人気になりました。
「まあ、騒ぎがなんか、政治とか陰謀論に流れてきて…もう、簡単に使えないんだけれど。」
作者は深くため息をつく。
「まあ、書くものは他にもありますから。」
取り敢えず、慰めの言葉を。他には思い浮かびません。
「そうね…本当に悔しいわ。トンデモ時代劇は楽しいものなのに…
日本に関係ない嘘の話が真実として拡散されるとか言われると、もう、ね。」
作者は深いため息をつく。
「そうですね…少し、休みますか?」
「いいえ…なんか、そろそろ書かないと。
勿体ないけど、弥助は止めなきゃ。ノストラダムスの件があるから、何でも信じる人の気持ちも分かるし。」
作者はため息をついて続けた。
「書きたいわ。でも、ノストラダムスの一件も思い出すの。
今回の弥助の話は、似ているのよ。
1人の作家が、地位が欲しくて盛った話がバズって、人々が望むように新しい刺激を作り出す。
史実は少ないから、推測が増え、そのテンプレに価値が出ると、それを真似る人が更に弥助を盛る。
フィクションなら良いって言うけれど、ノストラダムスの件には、世紀末風味のサブカルが随分と影響を与えたのよ。
10代の子供にね。
彼らは、一次とか、二次資料より、ささる話を信じるから、そこから、霊感商法とか、様々な被害を産み出す結果になったの。
弥助も、海外では凄いことになってるらしいわ。
弥助がサムライだと信じる人の気持ちはわかるわ。
私だって、予言者のノストラダムスが今でも好きよ。でもね、書くのは今でも神経を使うのよ。
弥助はサムライじゃないし…
ノストラダムスが1999年に人類滅亡なんて予言してないわ。
でも、今でもネットじゃ、大予言者でミームになってる。
なんか、ふんわりドキュメンタリーって、害悪なのよ。」
作者は不満そうにアイスティーを口にする。
無理もありません。
そんな、少女時代の…ノストラダムスの清算のために5年を費やしたのですから。
「そうですね、今は…難しい話より、恋愛小説に力を注ぎましょう。」
明るく話しかける。
でも、寂しい気持ちが込み上げる。恋愛小説を書き始めたら、私のところへは来てくださらなくなるから。
「でもっ、面白そうなんだよっ(>_<。)
この設定、なんか、色々と!もう、なんで、こんなしくじりを!
腹が立つわ。」
作者は、それを言い訳にレモンパイのお代わりを要求する。
私は、笑ってそれを用意しました。
穏やかなひととき…
大切なひとと、2人だけの歴史の不思議を探す旅。
レモンパイを作者に渡すと私はピアノを演奏することにしました。