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茶色いノート  作者: ふりまじん
魔法の呪文
430/499

コンタクティ6


日が静かに傾き、やがて、窓辺を赤く染め始めました。


夕暮れにあわせて、窓辺に飾ったくちなしの花の精に出窓に飾った小さなピアノを弾いてもらうことにしました。


くちなしの精は甘い香りを放ちながら優しく微笑みます。

曲は『コスモスドリーム』1980年TVアニメ『新竹取物語』のテーマソングとしてリリースされました。


「私、この曲、好きだわ。」

作者は曲に耳を傾けて、嬉しそうに私を見ました。

「はい。」

「ふふっ。『勇者』からの連想かしら?それとも、利休?」

作者は探るように私を見つめます。

「そうですね…長命種の昭和のアニメの有名なキャラですから。」

私の答えに作者は笑顔になる。

「そうだったわね。私、今でも、『千年女王』は大好きよ。少女時代の欲目もあって、私は、こちらの女王さまの気高い感じが大好きなの。」

作者はそう言ってピアノの音に耳を傾け、しばらく黙って聴いていた。

私もそれに従って曲を聴きながら作者が話し出すのを待っていた。


夕焼けの柔らかな光が窓辺を飾っていました。

『新竹取物語』は、原作はSFファンタジーで、松本零士。

宇宙から飛来した女性が、千年、地球を慈しみながら地求人と交流する物語です。基本は宇宙人とのバトルものですが、美しい曲とともに、ヒロインの千年女王、雪野弥生の可憐な姿を記憶している方が多いのではないでしょうか。


「人の死を見送る役目…エルフや宇宙人だと詩的だけど、利休は切実だと思うの。」

作者は悲しそうにため息をつく。

「はい。」

話のテンポを折らないように相づちを打つ。

動き始める物語が、無事に生まれてくるように。

「70年…今では平均寿命も伸びて、珍しくはなくなってきたけれど、それでも、人間には『老い』が伴うもの。」

作者は悲しげに、窓辺に忍び込む闇を見つめる。

「そうですね。でも、年を重ねるのは…悪い事ばかりではありませんよ。」

作者は自分と利休を重ねて見ているのだろうか?

彼女が死を自覚する時、物語はどうなるのでしょうか?


ふと、利休の時世の句が頭をよぎりました。

宝剣で祖仏共に殺す…一見、恐ろしげなフレーズですが、ネットの執筆活動は、ワンクリックで…一瞬ですべての活動が…物語が消えてしまうのです。


今の私には、そちらの方が、より不気味で恐ろしく感じます。


「まあ、ね。一般人ならそうだろうけど、利休は政治家よ。あの静かな顔立ちに…一体、どれ程の(ひみつ)を抱えたのか…

強い権力を持てば、強いストレスを内外から受けるわ。そのバランスが崩れたら…それは世界の終わりだと思うのよ。

年老いて、様々な事柄が上手く出来なくなってくると、このバランスが崩れることが恐くなるわ。

そんなことを考えて、私ね、関羽の伝説を思い出したのよ。」

作者の顔に闇がかかり、私は、テーブルに置いたキャンドルに灯をともしました。

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