コンタクティ5
「『伝家の宝刀は抜いてはならぬ』と、言われてるらしいわ。」
作者は真面目な顔で私をみる。
「そうですね。最終兵器みたいなものですから、使わずに威嚇で済ませられたら幸いでしょうね。」
そう、伝家の宝刀とは物凄い切り札のようなものなのです。
「利休はそれを抜くことにしたのよね?」
「そのようですね。ところで、草薙の剣がどうとか…言ってましたよね?」
草薙の剣
これは、神話時代からの伝説の国宝です。
三種の神器と呼ばれる宝物の1つに数えられる皇室の伝説の宝物です。
そんなものを…なぜ、利休が宝刀として持つことが出来ると考えたのでしょう?
「ああ…うん。『猿酒』は時代小説だから、史実とか考えずに、面白い話を考えたかったの。今回、テーマ『メッセージ』だったでしょ?この話、こんな風に進むはずだった…って、読者にイメージしてもらえるような話にしたかったのよ。」
作者はそう言って苦笑した。
「でも、草薙の剣って…」
「だってぇ〜おどろおどろしさも欲しいし、皆が知ってる刀にしないとスペシャル感が出ないじゃない?」
作者が口を尖らせます。
「スペシャル感?」
「うん。ほら、あらすじでさ、書いてあるだけで人を引くようなアイテムを考えたのよ…変に手に入りやすい剣だと、歴史好きが論破にかかるでしょ?
どうせ、利休なんて商人の子なんだし、中途半端に有名な剣なんて持ち出したら、茶碗に負けるんだもん。」
「茶碗?」
「うん。『天目茶碗』みないな?」
作者が焦りながら私を伺います。
「『天目茶碗』は確かに国宝ですが、福建省の天目山の寺院で使われた茶の道具です。」
「そうなの?利休がプロデュースした茶碗じゃないんだ。」
本気で驚く作者に呆れてしまいます。
「利休も確かに国宝級の茶碗を作り出しましたが、黒楽茶碗でしょうか…」
「黒楽?ああ、抹茶を飲むときに出てくる茶碗だ。」
作者は画像を検索して笑う。
「本当に知らなかったのですね?」
「うん。でも、確かに、茶碗を並べると、唐の時代、大陸から茶の湯が来て、日本に最適化されていったのがわかるわね。
それにしても…ウーロン茶の宣伝で、あんなに福建省を連呼していた意味がわかった気がするわ。」
作者はため息をつく。
「なにか…話が随分とそれた気がしますが。」
とは言いましたが、なんとなく穏やかな、こんな時間が楽しくもあるのです。