コンタクティ
「ごめん。」と作者は私に謝りました。
私は…言いたい事を飲み込んで微笑みます。
だって…仕方ない。
彼女は頑張っていたのだから。
私を放って他の話をエントリーしたくらいで不満は言えません。
「良かったじゃないですか。わりと読まれているようですよ。」
私は作者の新作を誉める。
作者は渋い顔をして笑う。
「うん…もう、あれしか間に合わなかった(T-T)
利休…考えたんだけど。」
作者は申し訳なさそうに私を見る。
「そうですね…では、そのお話を聞かせてください。」
私は作者を見つめた。
「一応、考えたんだよ。利休。アンタの言う通り辞世の句を探してさ。
でも、それは変わった句でさ、話が複雑になりそうで間に合わないと判断したんだ。」
作者の話を私は静かに聞いた。
確かに、利休の辞世の句と思われる詩は二句あります。
『人生七十 力ヶ希咄 我吾這宝剣祖仏共殺』
『堤ル我得具足の 一太今此時そ 天になげうつ 』
確かに、様々な考察のある句です。
「そうですね。確かに、難しい句です。」
『人生七十、ええい、やあ、我、此の宝剣、祖仏と共に殺す。』
仏と先祖、自分をも殺すとは尋常ではありません。
そして、今まさに、命が尽きる言うときに、なぜ、こんな句を残したのでしょうか?
内容が内容なので、利休がやけになって読んだ句だと言う人もいます。
「これさ、皆んなに残そうとして作った句じゃないよね(-"-)」
作者は渋い顔をする。
「どう言う事でしょうか?」
私の質問に、作者は軽くため息をつく。
「私は句とか知らないけどさ、でも、これを見たら、読み辛いって思うもん。」
「そうでしょうか。」
私は様々な考察を思い返す。
「少なくても、一般人には向けてないわよ。
詩の中に、絶叫とか入れると、普通の人は恥ずかしくて歌えなくなるのよ。
歌謡曲ですらそうなんだから、句なんて、もっとじゃない?」
「芭蕉は吟いましたよ?
『松島や〜ああ、松島や、松島や』」
私の言葉に作者は苦笑する。
「確かに、『ああ』も感嘆句だけど…利休の句は死を前にして、もっと、何て言うか…パンクなんだよ?」
「パンク?」
「うん。今風に超訳するとさ、漢詩って、外来語じゃん?なんか、影響力のある大国の…いまなら、まあ、アメリカって感じじゃん?」
「まあ、そうですね。」
「だから、訳すなら、英語の外来語だと思うわけよ。」
作者はため息をつく。
「なぜ、そこでため息なのでしょう?」
私は苦笑が込み上げてきました。
そんな私を渋い顔で見て、そして、話始めた。
「いい、じゃ、今風に訳すわよ。」
『アイアム七十、ワオ、サプライズ! グレートマイソールド、キル、マイファミリー、アンド、アイ。』
「って、書いてよこしたようなもんじゃん。」
作者は少し恥ずかしそうに無愛想な顔をする。
「なんか、利休ファンに喧嘩売ってませんか?」
今度は、私がため息をつく。
「そうかな(-"-;)いや、凄く違和感があるってところは認めてくれる気がするよ。
なんか、ネットや本で、辞世の句について様々な説があったけどさ、解説に困ってる感じがしたもん。」
「だからって…サプライズ!とはいいませんよ?」
「力ヶ希咄 (りきいきとつ)なんても、現代日本人だって大概しらないよ。」
作者が憮然と答える。
なかなか、面倒な作業だったのでしょう。
締め切りに終われながら考えた作者を思うと、こちらが引くしかなさそうです。
「まあ、そうですね。」
「なんかさ、『えい、やー』みたいに訳してた人が多かったけれど、『えい、やー』なんてのも、人前で言うの恥ずかしいじゃない?」
作者は手振りを入れて圧してくる。
「はあ…」
「そうよ。普通さ、辞世の句なんてのは、エンディングを飾る宝石みたいなものなのよ。
自分の人生の最期のそうまとめ。だから、みんなに分かりやすく、覚えやすいフレーズで作るんだと思うわけ。」
作者は少しなげやりに言う。
「そうかもしれませんね。」
「うん。偉い人の辞世の句って、子供の頃から何度か、歴史物を読んだり見たりして、それに触れるのよ。で、その年齢、年齢で、色々と心の変化を感じたり、別世代の考え方に驚いたりするのよ。だから、普通は、発し安くて覚えやすいものを選ぶと思うのよ。ほら、みんな、死ぬときなんて、突然だし。」
「だからって…サプライズ!は…」
「それ、迷ったのよ…利休って、死ぬことを無念におもったのか…70年もいきられたことを喜んでいたのか…」
作者は本当に困った顔をした。
「あとに…自分と仏と先祖を殺すって、そんな物騒な文章が続くんですよ?」
私の質問に、作者は黙ってコーヒーを飲み干し、それからカフェオレを頼んでから答えた。
「70歳って、古稀じゃん。そして、利休は処刑されたのが数え年で70歳。古稀だったのよ。それを全面に出してるところが不思議に思うのよ。年を前に出して作られた信長の辞世の句は『人生50年〜』ってうたうじゃん。」