春雨3
雨は少し勢いを増してきました。
作者はノートに何やら書き込みながらため息ばかりです。
耳元ではショパン…
『雨だれ』
こんなに近くにいるのに…遠く感じるのは…このイヤホンのせいでしょうか?
ボンヤリと窓の雨だれを見つめていると、作者が私を見る。
私は反射的にイヤホンを外す。
作者は私を見て苦笑しながらイヤホンを外した。
「ごめん、なんとか…イベントに参加したかったから、一人にさせて。
でも…今回も無理みたいだよ(>_<。)」
作者は深くため息をつく。
「どうしたのでしょう?」
私は穏やかに聞いた。
「設定が面倒くさいんだよ(>_<。)
作中作者の遥希が、色々考えるからさ。」
作者はそう言って深くため息をつく。
「そうですね。」
私はそれだけ言ってコーヒーを口にする。
遥希君が作る物語は、スチームパンクものですから、時代や、登場人物を考えるだけで一苦労するのです。
「なんか…短い話を考えたいんだけど…難しいわ。」
作者の慌てぶりに、小学時代の夏休みを思い出しました。
作者は自由研究とか、そう言うものを考えるのが苦手なのです。
正確には好きなのに、まとめられないのです。
結局、色々悩み、発表会で1分前まで悩み、挙げ句に歌を歌うような人なのです。
「歌に…してはいかがですか?」
ふと、『林檎殺人事件』と言う歌を思い出しました。
ミステリーを考えていたとき、作者が一番短いミステリーとして例にあげたのです。
「うた…今、人気のあらすじ見たいな歌?吟遊詩人にでもなるの…まあ、それでもいいけどさぁ…
そうよね…歴史の話なんて、殺人、多いし、でも…オチは必要だよ?」
作者は上目使いに私を見る。
「ふふっ…。そうですね。切り裂きジャックとか?」
私の言葉に作者は渋い顔をする。
「もう、嫌みさんなんだから。それは昔、ホラーで書いたじゃん。」
作者は渋い顔をする。
「こちらでも考察をし、放置してますよね。犯人は分からずじまいです。」
私は昔の事を懐かしむ。
そして、現在、作者が独りで考察をしているのです。
「そうだけど…もう、面倒な設定にさく時間がないよぅ(T-T)」
作者はしわくちゃの顔で私を見る。
「仕方ありませんね。」
私は苦笑した。
短い話をなにか考えます。
「仕方ないんだよ…本当に…メッセージで短い話、私も考えてるんだけど…難しいんだよ…。」
作者は訴えるように私を見る。
「でも、『星泥棒』は上手く出来ていたじゃないですか。」
昔、童話の枠で詩のような作中作を作ったことを思い出した。
「そんなん、カテ違いじゃん。それに、テーマ、決まってるんだもん。」
「メッセージでしたね?」
「そうよ、メッセージ…大概はダイイングメッセージを思い浮かべるわよね?」
「そうですね。こちらのカテゴリーに合わせるなら、時代物。辞世の句何て言うのもアリですが。」
私は何となく、織田信長を思い出した。
「時世の句…かぁ。やはり、千利休しかないかな。」
作者のため息に思わず笑みがこぼれました。
『乱歩さま…』と言う自作の遥希君の作中作では、明智小五郎の行きつけの喫茶店『白梅軒』のマスターの名前は利休なのです。
「ふふっ。面白そうですね。」
私は作者の為に利休の時世の句を調べました。