サクラ3
「まあ…今は、あんたの方だよ…遥希の話、作ってくれてありがとう。」
作者が笑う。
「私は、資料集めですよ…書くのは貴女の仕事ですから。」
責めるような口調と裏腹に甘い気持ちに包まれる。
作者は恨めしそうに私を見て、それから、軽く目を閉じる。
「そうね…まあ、頑張るよ…。しかし、面倒な事になったよね。」
作者は深くため息をつく。
「それでも…おやりになるのでしょ?」
私の質問を苦笑で返す。
「まあ…私は遅筆だから…あんまり社会状況には影響ないように書くけどね。」
作者は苦笑する。
『乱歩さま…』は、パンデミックの時に、その表現で描いていて、現在未完。
その経験から、普通の生活で話を進めることにした。
富山県のどこか…4万人の小さな市の高校生の町お越しのはなしを…
が、2024年の正月…予想外の災害に、こちらの話をどうしようか、悩んだのでした。
災害のあった場所を…無関係な我々が適当な物語を作るのも心配ですが、
現在、まだ、復興が進まない地域を…3年も町お越しの話を書いていた我々がやめると言うのも…なにか違う気もするのです。
今こそ、素人とはいえ、何か、発信するべきな気もしなくもないのですが…
ありがた迷惑と言う言葉も心をよぎるのです。
「そうですね。随分と前から書いていますし、ブッマークもそれほどありませんし、そんなに世の中に気を使う事もないかと、思います。」
私の言葉を…作者は恨めしそうに聞いていた。
「悪かったわねっ、絶対的底辺で!」
作者は叫び、そして、スマホから『夢はひそかに』を再生する。
ワイヤレスのイヤホンがあれば、二人同時に聞ける時代…
仲良く片耳にイヤホンをつけて肩を寄せあう時代が少し…恋しくもあります。
「あーあ。昔はこの曲を聴いて、自分にも王子さまが来ることを信じて夢見ていられたのに…シンデレラって、やっぱり凄いよね…
私には、出版社どころか…一次選考のおしらせすら来ない未来しか見えないもん(T-T)」
作者はボヤく。
ワイヤレスイヤホンをつけながら、話しかけても…普通は会話にならないのですが。
それとも…独り言なのでしょうか?
「ねえ、ちょっと、あいてをしてよぅ。」
作者に右腕を掴まれて、少し、嬉しく思う…私もたいがいです。
イヤホンを片方とりました。
「はい。名曲もいいですが、少し、歩きませんか?」
私はもう片方も耳から外して辺りを片付けはじめた。