サクラ2
夕暮れの川岸で…作者が私に笑いかけています。
薄暗くなる空が紫にけむり、懐かしい土の香りが踊るように過ぎ去って行きます。
「ごめん、急に呼び出しちゃって…」
作者はぶっきらぼうに言いました。
「お誘いは…いつでも…嬉しいです。」
一呼吸…落ち着いてそれだけ言いました。
本当は…今すぐ抱き締めたいです。
そのランタンと…何やらソースの香りがするビニール袋がなければ!
「ああ、これ、近くの屋台でたこ焼き売ってたんだ、食べようよ!」
作者が嬉しそうにビニール袋を持ち上げました。
「………。ありがとうございます。温かい紅茶をいれますね。」
私はビニールシートを直して作者を誘う。
辺りが暗くて…良かった。たこ焼きに焼きもちを焼くほど会いたかったなんて、そんな顔、していたら、貴女が困るに違いないから。
「ありがとう…って、アンタ、こんなご馳走、どうしたの?」
作者が私の持ってきたタッパを見つけて叫びました。
「花見なら…少し、食べ物も、と、思いまして。」
「は?いやいや、これ、凄いよ、唐揚げとか…タマゴサンド!何これ、ウインナーとか、色々具沢山で!大変じゃなかった?」
作者は、勝手にタッパを開けて品定めを始めました。
「お行儀悪いですよ。本当に…今、紙皿をお出ししますから。」
私がバックから皿を取り出すと、作者は少し悲しそうに受け取った。
「どうかしましたか?」
心配になる…良い歳の女性にお行儀の説教なんて…気分を害されたのでしょうか?
「ううん…違うよ。なんかさ、私、たこ焼きワンパックで…なんか、気が利かないなって、反省しちゃって。」
作者はため息をつく。
本当は…早く帰るつもりだったのでしょう?
忙しい作者を思うと切なくなります。
気が利かないのは…あざといのは私の方です。
こうして…食べ物を持ってくれば…貴女と少しでも長くいられるのですから。
「さあ、そんな事より召し上がれ。私も、たこ焼きを冷めないうちにいただきます。」
努めてさりげなくたこ焼きのパックを開きました。
作者は、タマゴサンドを嬉しそうに取り出しました。
「最近、忙しいようですね。」
少し、落ち着いた頃合いに聞いてみる。
「うん…なんか、最近、すぐに眠くなるし、なんか、連載…そうだよ…連載が増えちゃってね…(T-T)」
作者は、唐揚げを一口頬張る。
「連載…でも、有明くんの物語は書いた方が良いと思います。」
私は混乱する連載を思った。
「うん…あれから3年が過ぎちゃってね…今年のクリスマスは…清貴の恨み節でうなされたんだよぅ…」
作者は、深くため息をつく。
「あの話は…有明くんは、クリスマスに葵さんに告白するのでしたね?」
私は『乱歩さま…』の設定を思い出した。
確か、3年生になる前に、彼は親に連れられて自宅へ帰る…それで、葵に告白する…と言う設定でした。
「ふふふっ…そんな展開、ノストラダムスの予言よりあてにならないよ…なんか、新しいキャラが出ちゃってさ…(T-T)葵ちゃん…いきなりモテ期来ちゃったんだよ。」
作者は、タマゴサンドを飲み込んで頭を抱えた。
「モテ期…と、言うより、逆ハーレム状態になりそうでしたね。」
「逆ハーレム?ああ、あれ、こんな時に使うのか!
でも、本当にそう?
遥希は、清貴の方が好きそうだし、恋愛苦手だし…清貴は多分…家に連れ帰られると思うけれど。」
作者は、渋い顔をしてため息をつく。
私は、そんな作者のためにレモンティを作るのです。
温かな紅茶の香りに、爽やかなレモンが華を添えます。
「確かに、別枠で、元気な少女が沢山登場してますからね…。」
本当に、あちらはまとまるのでしょうか?
「うん。こっちも大変だけれど、まあ、なんとか…ね。」
作者は、紅茶を口にしてしばらく黙る。
春風に…さくらの花びらが舞っています。
しばらく…何も考えず、二人で桜を見ていよう…そう考えました。