さくら
日がかげり、優しい春風が沈丁花の香りを連れてきました。
私は卵サンドを作ります。
作者の好きなタマゴサンド!
夜桜見物に…あの方が誘ってくれたのです。
温かなコーヒーと紅茶を国産のレモンを絞ると、朝日を浴びた琥珀色にニルギリは輝きだすのです。
ああ…やはり、浮かれてしまうのを止める事は難しい。
ほんの少し…公園を散歩するだけだと言うのに。
物思いにふけってはいられません!
身支度もしなくては!
最近は、メフィストが作者の隣にいるのです。
一段と存在感を増してゆくメフィスト…うらぶれた姿など作者に見せる訳にはゆかないのです。
早めに現地につくと、約束のさくらの木の下で。
ここは小さな作者との秘密の場所。
少し、道から外れて人が来ない穴場なのです。
川沿いにレジャーシートを敷いて対岸の桜を眺めます。
作者が来るまで物語について考えることにしました。
我々の作品の『お願い乱歩さま』は、途中、主人公を追い越して二人の少年が暴走してしまい、話が混乱しています。
作者は混乱の元、有明清貴君をまとめることにしたようなので、番外の主人公、遥希くんの物語を考えることにしました。
遥希くんは、乱歩を題材にした小説を書くことになっていて、その為には細かな設定を我々が調べる必要があります。
作中作は大正時代をモデルにしたスチームパンクの世界です。
大阪新世界は、畑と荒れ地だった場所に1903年内国勧業博覧会の会場をかわきりに都市として発展をして行きます。
西洋を模した都市計画で1912年ルナパークの開業と共に大阪の新名所『新世界』として新たな発展と人々の夢を誘うのです。
これをモチーフに、もう少し近代的な雰囲気の都市を遥希くんには考えてもらわなくてはいけません。
ルナパークとは、チャーラス・I・D・ルフが設計したアメリカを初めとした遊園地の名称です。
残念ながら、当時の建造物はありませんが、通天閣にその面影の一片を見ることが出来ます。
やはり、我々の『新世界』にも塔は必要でしょうか…
ボンヤリとそんな事を考えている間に辺りは暗くなり始め…柔らかなランタンの光がこちらに近づいてくるのが見えました。
温かい春風に乗って懐かしい足音が聞こえてきました…
ドキドキします…
私は急いでシートを整えました。
作者です!ああ…私の作者が…私に、会いに来てくれたのです。