デザート3
気がつくと、私の前にはカクテルグラスが置かれていた。
「…これは何ですか?」
私が静かに質問すると、ミズキは穏やかに微笑んで説明を始めた。
「アレキサンダー…1863年、エドワード7世とデンマークのアレキサンドラ王女のご成婚のお祝いに献上された一杯です。
ロマンティックな物語と共に、男性にも楽しめるデザートカクテルです。」
ミズキの説明を困惑しながら聴いた。
私の為のレシピが欲しいわけでは無いのですが…
そう思いながら、作者が私に作ってくれたとしたら…などと空想してしまいます。
チョコレートを使ったスイーツは、温度調整や作業手順で味が随分と変わってしまいます。
分離したチョコレートのお菓子など、食べられたものではありません。
それに比べたら、確かに、カクテルは作りやすいかもしれません。
このカクテルは、クレーム・ド・カカオと言うお酒に生クリームとブランデーを加えたお酒です。
しかし、クレーム・ド・カカオとブランデーを使うので、甘い食感のわりにアルコール度数が高いのです。
作者と楽しむとしたら?
私は、生クリームに牛乳をまぜ、濃縮コーヒーにクレーム・ド・カカオを少し混ぜたものをシェイクし、クラッシュアイスの入ったグラスに注ぎました。
アレキサンダーには、生クリームの臭み取りのアクセントにナツメグを使いますが、ここは金箔を少し…特別感を演出します。
出来上がったグラスを…少し寂しく見つめました。
本当に!ほんとうに、あの作者は、なにを考えているのでしょうか。
もう、随分、会っていない気がします。
「写真に残しますか?」
ミズキが出来上がったグラスを見て確認してきました。
出来上がったグラスが切なく輝いて見えました。
「いいえ。必要ありません。ミズキ、あなたが飲んでください。私は、あなたの作ったグラスを干しますから。」
アレキサンダー…まさに、デザートカクテルの王と呼ばれるこのグラスは、男2人で空けるには…切ない飲物なのです。