ディナー6
「刀…歴史の刀の物語…インターネットから資料をアップロードしますか?」
ミズキは無表情に聞いてくる。
「歴史の刀ですか。素敵ですが、今はいいです。」
「はい。」
「まだ、設定を練り上げていませんからね。
まずは、喫茶店を作らねば行けません。」
私の言葉をミズキはその黒い瞳で追う。
「喫茶店の画像をインターネットからアップロードしますか?」
「…いや、資料は今は、アップロードしない。
私の話をテキスト化してだけして欲しい。」
「はい。」
ミズキ…AIと話すというのも、難しいものです。
ふと、作者がタブレットに話しかけに苦労していたのを思い出しました。
あの時は…英会話を練習するとか言って、「ハワユー」と声をかけていました。
AIに反応されて嬉しそうにしてましたが、沢山英語で返されて悶絶してましたっけ。
ふふっ。
一応、頑張って要らしたのに…
インターネットの使い方を調べたり…歴史を調べたり…
三年越しの計画を…
たかか、1回の一次選考で、選考基準が気に入らないからって、放ってしまっていいのでしょうか?
否
未完がどうにも出来ないからと、自分の生涯でかたをつけようと作者は自ら決めたのです。
小説の未完だけでなく、作家人生までエタって良い訳ではありません。
私はストーリテラ。
あの作者の作品を良作に導く者。
「対象読者は小学校低学年。基本、女子向け。まあ、この世代には男女差は少ないですから、大きく範囲を設定。」
私の話をミズキはテキスト化して行きます。
「主人公は少女でしょうか?」
ミズキは質問しながら、設定の問題点を書いて行きます。
就業に関する問題
喫茶店に未成年が出入りして良いのか?
成人設定のミズキとの関係性
確かに、現代では色々な問題があります。
「ヒロインは12歳、尋常小学校を卒業し、伯父の店を手伝う設定。時代背景を大正時代をモデルにすれば、低年齢での就業は可能だよ。
喫茶店の経営は、昔から少女の夢だからね、この辺りで保護者の不快感は無いと思う。」
ただ…パパ活などの低年齢化が問題の現在、年上の男性との二人暮らしは問題です。
最悪…作者に嫌われる作品はさけなくては行けません。
ミズキの意見を聞いてみましょう。
「ミズキくん、この設定で、君の演じる主人公と少女を2人で暮らさせて良いと思うかい?」
私の質問に、ミズキは軽く頷いて考え、答える。
「ハイティーンには好感が上がるでしょうが、低年齢層の好感度は下がると考えます。
一旦、二人暮らしの状況から、誰か、読者が納得できる方に預けるか、敷地内でテント等で暮らすという方法もあります。」
「テントですか…」
昭和では流行のテンプレも、現在では危うい印象が漂います。
「テントは止めましょう。そして、どちらかに住み込みをする事にいたしましょうか。」
頭の中で、作者の夢を思い出します。
大正時代の…田舎の少女が都会の華やかな文化に出逢う…昭和女子、鉄板の夢設定。
「はい。それでは、住み込み先はどうしましょうか?」
サクサクと進めるミズキを、私はここで止めた。
「いや、今回はここまでで、そろそろ…アップルパイが落ち着いた頃ですね。あなたも召し上がりませんか?」
ミズキには、食事を楽しめる機能もあります。
が、ここは機能ではなく、食べられる設定に変更します。
作者は…今日は来てはくれないようですから。