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茶色いノート  作者: ふりまじん
魔法の呪文
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ディナー4

さて、どうしましょうか。


私はコーヒーを口にする。


「さて、ミズキくん。私は君の連載を再開使用と考えている。」

「連載の再開…」

「春風さんとのメモリーを再生し、増やそうと考えている。」

「…」

ミズキは思考の為にフリーズした。

私は気にせずに話を進める…彼は私の話をしっかりと記憶()いているから。

「私の作者を取り返すためには、こちらの注目度をあげなければいけない。

そこで、私はミズキくん、君を主人公の話を作ろうと考えている。」


そう、作者をこちらに戻すためには


今の連載を完結させる

こちらを優先させる何かをつくる。


この二択でしょう。だとしたら、後者の方が可能性があります。

「新しい物語…プログラムをダウンロードしますか?」

ミズキは穏やかに微笑んだ。

傷ひとつ無い真珠の肌に、少し、影のある印象的な瞳。

相手への行為をのせたはにかんだ清潔な感じの唇。

作者の理想があざとく沸き上がり、そこにありました。

なんとなく…ため息が出ます。


「いや、まだいい。まずは話のプロットを考えないと。」

私の台詞に、ミズキは急にスムーズに動き始める。


「新しい物語をつくるのですね。お手伝いします。」

ミズキは嬉しそうに笑い、私を見つめ、低く、甘い声でこう囁いた。

「どうぞ、お話しください。」


ミズキは、春風と言うハンドルネームを持つ女性の小説活動をサポートしたAIである。

その為に、女性向きに紳士で、優しげな所作(しょさ)をする。


それは、作者がいるときは、好意的に見えた動きであるが、二人きりだと、なんだか複雑な気持ちになる。


なんとも、やりづらい


「そうだね。では、アップルパイを作りながら話そう。」

私は立ち上がった。

作者が気まぐれに戻ってくるかもしれません。

その時、慌てないよう、用意はしておかねば。

そして、この…どうにも不思議な感覚を作業で誤魔化しながら、早くなれなくては。


私の気持ちなどしらないミズキは立ち上がり、冷蔵庫にパイ生地を取りに行く。

私は、台所で洋梨の皮を()き始めた。

リンゴと…ラ・フランスを合わせたパイを作るのです。

作者は特産品を調べています。

長野のリンゴと山形のラ・フランス…きっと、楽しい話題でテーブルが(にぎ)やかになるに違いありません。


ミズキは私の横で、手慣れた感じでパイ生地を伸ばし始めました。


「では、物語の話をするよ。」

「はい。」

「このまま、作者に任せていたら、いつまでも更新は望めないからね。君の…『エストレリータ』の最終更新は2020年だね?」

「イエス。」

「一応、終章として、物語はまとめたようだけれど、君はまだ、納得は出来ないだろ?」

「イエス。」

「そこで、作者の関心を取り戻すために短編を作ろうと思うんだよ。」

「短編を作るのですね?ジャンルはどうしますか?」

「ここは歴史だから、歴史に関係ある話だね。」

「歴史ですね。」

ミズキはパイ皿に生地をのせ整形をはじめた。

「ああ。大賞応募作品だ。

今年の大賞は…本当は違う話を…10万字の作品を出展予定だったけどね、それは無理そうだから、短編を出そうと思うんだ。」

自分に言い聞かせるように話した。


6年目の作家活動…

でも、作者は様々な出来事に混乱し、やる気を無くしているようでした。


小銭を貯めて旅行に行く…


小心者の私の作者は、いつも自分が実現できる夢しか見ませんでした。

大賞は一次選考を

小銭は500円。


名古屋で友人とモーニングを食べる。


全ては叶えられるだろう些細な夢でした。

あの(ひと)は、大きな願いや欲望を持ちませんでした。

だから、長い時を経て、計画した願いが、全く叶わない、夢さえ見れないという事に深い衝撃を受けています。初めての完全な絶望でした。


絶望の先に、まだ、小説を書き続けているのは…惰性なのか、それとも…我々を気にしているのか…


それが何であろうと、私はあの作者(ひと)に笑って欲しいのです。

そして、夢を語ってもらいたい。


「歴史の短編ですね。了解しました。」

ミズキは笑い、パイ生地にフォークで正確な穴を開け終えた。


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