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茶色いノート  作者: ふりまじん
魔法の呪文
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ビクトリアン・ティ2

家に帰ると、作者が私を迎えてくれました。

テーブルを飾るケーキとティーポットと共に。


「お帰り。居ないから、お茶の用意をしてみたよ。」

作者は少し照れたように下を向いて軽く笑う。


ふふっ…


なんだか、幸せな笑いが込み上げてきました。

私は少し大袈裟に手を広げ、恭しく西洋風の挨拶をする。

「これは、素敵なハイ・ティーに、お招き頂きありがとうございます。」


私の軽いおふざけに、作者は戸惑いながら、日本風の…少しシャイな感じの会釈で答えた。

「うん…ハイ・ティーか、どうかは分からないけど、気に入ってもらえたら嬉しいわ。」

作者は疑うように私を見ながら、慎重に言葉を選ぶ。

「勿論です。本来なら、豪華な花束を用意したいところですが、今日は、これで。」

私は少し恐縮しながら、お菓子の紙袋から、イチョウの葉っぱとドングリを取り出した。


お菓子じゃなくて、すいませんね。


なんて、考える私を尻目に、作者は嬉しそうに葉っぱとドングリを眺めた。

そして、弾ける笑顔で「ありがとう!」と、叫ぶと、魔法で、ドングリを数個使って人形を作り、イチョウのギターを持たせて演奏させた。


「ショパン エチュード3番…ですか。」

私は物悲しい旋律に呟いた。

エチュード3番は、通称『別れの曲』とも呼ばれています。

「ショパン…この曲、なんだか切なくて好きなのよ。」

作者は苦笑する。

「私も…嫌いではありませんよ。」

胸をつく、そのメロディに作者の気持ちを推し測ります。

この曲は1832年、22才のショパンがパリへと旅立つ時に作曲されました。


日本では『別れの曲』と呼ばれていますが、海外では、様々な呼び名があります。

「うん。青年ショパンの新たな旅立ちと別れの旋律…寂しいだけではなくて、華があって、いいわよね。」

作者は笑う。そして、温めたポットに茶葉を入れる。

「ダージリン…ですか?」

「うん…少し、寒くなってきたから、白ワインのシェルパティを作ろうと思って。」

作者はそう言って作業をすすめた。


「時影…私ね、今回、はじめて、一人っきりが辛かったのよ。何か、突き上げるような不満や不安に包まれてさぁ〜これが孤独って奴なのかな?」

作者は独り言のように呟きながら紅茶を淹れる。

「どうでしょう?」

私は物悲しい作者の表情に不安を感じた。

「私、いつも、1人の時でも、何か、せわしなく考えていて、最近じゃ、アンタと話したりするから、肉体的には1人でも、寂しいとか感じたことはなかったわ。でも…最近、本当に埋められないような切ない気持ちになったのよ。

で、いろんなものに不満を感じたりしたんだけれど、これが寂しいからだと、理解したのよ。」

作者はそう話ながらカップに紅茶を注ぐ。


「残酷ですね。」

出された紅茶の美しい琥珀色の水面に悲壮な私の顔が映る。


貴女が話しかけてくれない世界…

それは、どれほど辛く重苦しいものなのでしょうか?

切ない作者の顔に、私の未来を重ねてしまいました。

「うん…。孤独って…壮絶ね!私、今まで、感じたことなかったわ。いやぁ、ビックリよ。一人っきりが孤独だと思っていたから、自分は体制があるんだって疑わなかったわ。」

作者は、何か嬉しそうに笑い出す。

「楽しそうですね?」

少し、嫌味に言ってしまいます。

その孤独は将来の私の姿。

貴女を失い永久(とわ)に終わらない…

「楽しくないわよっ。痛いし事投稿しちゃうし、なんか、辛いし…

でも、孤独の表現が出来た方が絶対、金になるもん。」

作者は強く天井を見上げる。

「お金もうけ…ですか。」

「そうよ、お金を貰える作品を作ろうとする。

それって、読者としっかり向き合うって事だもん。

ただで読める作品に、わざわざ、手間をかけて対価を払う。この労力って凄いんだから。

そうして貰うにはどうするか?考えるのって凄いと思うの。」

作者はケーキを取り分ける。

本日はチーズケーキのようです。


「そうですね。」

私は、差し出されたケーキを受け取りながら頷いた。

しばらくは、私も作者も孤独には悩まされることは無さそうです。


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