悪霊6
昼下がりの穏やかな林を二人で歩いています。
黄昏の秋の日差しが、葉を揺らしながら降り注ぎます。
「もう…秋だね。」
作者は寂しそうにぼやきました。
「はい。」
私はその後ろを歩きます。
作者の髪に金色の日差しが緩く絡んでいました。
「話が…終わらないわ…。他の話もしなきゃいけないのに。」
作者は溜め息をつく。
「そうですね。『悪霊』かかりましたね。」
「うん…まあ、私は面白いからまあ、いいけど、読んでくれる人、飽きてないといいなぁ。」
作者は諦めるように両手をあげて伸びをする。
「大丈夫でしょ。つまらないと思えば、読みには来ませんから。」
慰めには…少し、ブラックな台詞でしょうか?
「まあ、ね。でもっ、それは私が悲しいわっ(T-T)」
作者は思いあまって、私の方を振り向いて渋い顔をする。
「まあ、本命は西条八十のミステリーですから、そっちを頑張ればよろしいのです。」
私はそっけなく言った。
たまには突き放した方が良いこともあるのです。
「う…ん。そうなんだよね。でも、調べると興味深くてさぁ。」
作者は後ろ向きに歩きながら笑う。
「危ないですよ。」
私は不安定な足場が気になる。作者は肩をすくめて向きを変えた。
「そうですね。コナン・ドイルのイメージが随分と変わりましたからね。」
私は『ミステリー大賞』を思い返す。
「江戸川乱歩もね。そして、随分と昔のオカルト検証も楽しいわ。」
作者は空を仰ぎ見る。
「エバァ・Cの心霊実験ですか?」
エブァ・カリエール
彼女は20世紀に活躍した霊媒師で、SPRの実験にも協力しました。
彼女は、エクトプラズムを放出し、数々の証拠写真を残しました。
「うん。子供の頃、よくみたよ。あの人の写真…でも、合成写真じゃないかと疑ったりしたよ。」
作者はそう言って、私の方を振り向いて笑うと、林を抜け、すすきの広場に飛び込むように進む。
「私の子供の頃は、合成写真の全盛期で、UFOとか、巨大バッタとか、そんな写真が出回っていたから、私達は、それを暴くのに夢中で、エクトプラズムについて考えなかったんだ。」
広場のベンチに座り、我々はミルクティーを飲む。
「まあ、日本の心霊についても、様々な作品がありましたし、日本の霊のイメージには、エクトプラズムは会わなかったのもありますね。」
「確かに、口から煙が出て、立体化するなんて、よくわからなかったわね。
幽霊は触れないのがお約束だから、無意識にエクトプラズムもさわれないって考え違いをしていたわ。」
作者はそう言って、顔をあげ、夕日に輝くすすきを見つめて叫ぶ。
「綺麗ね…ねえ、時影、そう思わない?」
作者は両手で水筒を握りしめながら沈む夕日を見つめる。
「ええ…そうですね。」
私も夕日を見つめた。
穏やかな秋の夕風が、すすきの海に波を生みます。
美しいこの瞬間を…
今は、何も考えずに眺める事にしました。




