奇なり…3
「夏休み…忙しいから、ここで夏ホラー書きたかったけど、なんか、ダメみたいだわ(T-T)」
作者はため息をつく。
私は、炭酸水にジンを少したらして作者に渡した。
「いいじゃありませんか。良くも悪くも、誰も期待してないですし。」
わざと明るく語りかけると、作者は炭酸水を口にしながら涙ぐむ。
「でも…私は!私は期待していたわ。
今年は乱歩デビュー100周年だよ!
そして、ウォルトが、期待を胸にハリウッドに向かってから100年の記念の年なんだもん。
書けない理由が…創造的な理由なら、まだ、諦めもつくんだけど…オッサンと喧嘩してメンタルやれるとか…情けなくて涙が出るわよっ」
作者は必死ですが、正直、理由があまりにも馬鹿馬鹿しくて笑えてきます。
「なに、笑ってるのよっ。」
作者が私にかみつく。
「すいません…でも、オッサンといさかいとか…馬鹿馬鹿しくて…」
「悪かったね!本人は真剣なんだよ〜。
ほんと、無実の罪をきせられて、逆恨みされてるんだからっ。私が、ストレスで会社の備品に蹴りを入れてるとか言うんだよ(>_<。)
ストレスで物に当たるのって、主に男性の発散の仕方だよ?
女性は泣いたり、愚痴るのが定番なのに…
なんか、傷つくわ。」
作者は遠い目で窓の外を見つめている。
遠くから、雷の音が響いています。
私は、タオルケットを彼女の肩に掛けた。
「確かに、ひどい人ですね。」
「でしょ?もう、皆がね、一度は私を疑ったんだよ(>_<。)
私、ストレスで物に当たる人間だと思われてたんだよ〜主に、容姿のイメージでっ!」
作者は不満そうに私に訴える。
小さな頃を思いだし、思わず、頭を撫でてあげたくなりますが…やめた方が宜しいのでしょう。
「確かに。貴女は優しくて、少女のような清らかな心の持ち主です。」
「そう!私は、優しいわ、少女のような…(///ー///)」
そこで、作者は止まり、赤面して私を責める。
「気持ち悪いわよ。少女のような…なんちらとか。私は、そんな清らかさなんてないわ。」
そう言いながら、少し、嬉しそうに見えるのは、私の欲目なのでしょうか。
「ありますよ。私には、初めて会った日からずっと…貴女は可愛らしい少女のままなのですから。」
私は、小さな頃の作者を思い出していた。
小さな子の世話をして、近所の少年にヒーローアタックをされては泣いていた、そんな可愛らしい頃を思い出します。
「気持ち悪いわよ。私、善人じゃないし、あのオッサンにも怒鳴りあげたもん。そうね…でも、少し、落ち着いてきたわ。」
作者は、薄いジントニックに酔うようにほほを染めて笑う。
「あまり、変な人を刺激しないでくださいよ。」
「変な人じゃないわ。仕事仲間だもん…でも、今回の事で、少年漫画の主人公って、結構、おかしい人だって思ったわ。」
作者はそう言って深くため息をつく。
「おかしい?ですか。」
「おかしいわよっ!命を狙ったり、執拗に恨まれたりしている人間と仲間になったりするのよ?
私なんて、奴の負の感情に当てられて、上手く休みを楽しめないもん。」
作者は早口で捲し立てる。
エアコンの温度を1度下げ、アロマストーンにラベンダーのオイルを2、3滴垂らす。
優しい香りが部屋を巡り、作者の気持ちを落ち着かせる。
「まあ、貴女は女性ですし、あまり、考えなくても良いのではありませんか。それに、休みの日まで、嫌な男の事など、考えては行けません。」
そう…そんな余裕があるなら、もう少し、私に気を向けてほしいのです。
「まあ、ね。でも、歴史物には必要よ。
武将とかは、殺し合いながら、和平を結んだりするし、荒くれ男をどう扱うのか…少しは考えた方がいい気がするのよ。」
作者はそこで1度、言葉を区切り、話を続けた。
「それに、男が登場すれば、女も登場するよ。楊貴妃についても…今回の出来事でイメージ変わったわ。
贅沢なものを、色仕掛けで買ってもらうイメージ立ったけど、
彼女は、皇帝から逃げたかったんじゃないかと思うのよ。
楊貴妃を引き留められる何かがなかったからこそ、皇帝は、躍起になって贅沢をさせようと考えたのだと思うのよ。」
作者はそこで深くため息をつく。
私は、少し、濃いめのジントニックを口にする。
貴女の気がひけるのなら…
そんなものを私が、持っていたとしたら…
私は、果たしてどうしたのでしょうか?
「どうでしょうか…例え、皆が羨ましがる宝物を差し出したとしても…
人の心を止めておくのは難しいですよ。」
そう…例え、私が、ブックマークを二桁稼げる話を作ったとしても…
3桁の評価が貰えたとしても…
貴女は、それで私だけを大切には思ってはくれないのでしょうから。




