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茶色いノート  作者: ふりまじん
魔法の呪文
371/499

誤差

「いやぁ、連載終わってここに来て、こんな参考文献に出会うなんてね(T-T)」

作者はコミックスの『陽だまりの樹』を手にため息をつく。


『陽だまりの樹』は、幕末を駆け抜けたある蘭方医の物語で、本の表紙を信じるなら、手塚治虫先生のご先祖様が主人公らしかった。

「そうですね…。『パラサイト』最後のあたりは北宮4代の医者の話になってきましたしね。」

私はため息をつく。


作品には描かれてなくとも、書くまでには様々な物語が設定されて行くのだ。

「うん…森鴎外とか…出てきたから、なんか、そんな話になってきたよね…。

でも、森鴎外を調べても、幕末の医者について良くわかんないんだよ。」

作者は膨れっ面になる。

「そうですね。鴎外は、文学の方が好きなようでしたし。」

私は笑った。

「あら、それなら、手塚治虫先生だってそうじゃない(●`ε´●)でも、それも食らって物語を作るんだから、凄いわよね。」

作者は深くため息をつく。

手塚治虫先生のファンには、大きな分岐点が登場する。

『鉄腕アトム』や『りぼんの騎士』の子供用の物語を愛し、ある時期に卒業する

そして、それらを卒業してから、なお、『ファウスト』『MU』などの大人向けに進んで行く道だ。


作者は前者で卒業した。

もともと、シリアスな物語は好きでは無かったのだ。そして、少女漫画の名作が、少女小説の名作が、溢れる時代だった。

が、こずかいは限られている。


そこで、経済的に卒業する物語が増えて行くのだ。


「そうですね。」

私は大人になってから、『BJ』を読んで感動していた作者を思い出した。


「うん。ありがたい話よ。森鴎外を参考にしようとしたけど、難しい話ばかりで、知りたいことは分かんなかったもん。でも、『パラサイト』を書いてから読む、『陽だまりの樹』の牛の疱瘡とジェンナーの話はモヤッたわ。」

作者は深くため息をつく。


疱瘡とは、天然痘の別名である。

これは昔から、何度かパンデミックをおこした殺傷率の高いウイルスである。天然痘にはアジア地域で、人の膿を使った予防法があったが、重篤化のリスクがあった。

1796年にイングランドのエドワード・ジェンナーが、その民間治療を天然痘の同族の牛の膿を使ってより、低リスクの予防法を確立した。


ワクチンの始まりの話である。


「そうですね。初期の『パラサイト』では、天然痘が鍵になっていましたから。」

私は消えた初期設定を思い出して苦笑した。


ジェンナー…彼の功績は疑いの無いものだ。

天然痘は、人類が唯一、撲滅させた感染症なのだ。

「ははは。あんな、変わるとは思わなかったわ。

まあ、それはともかく、牛痘は、天然痘の撲滅には直接の関わりはなかったらしいのよね。」

作者は渋い顔で曇り空を見つめていた。


「牛のウイルスでは、天然痘の免疫が出来ないのでしたね。」

「wikipediaによると、馬痘らしいわ。効果があるの。」

作者は渋い顔をする。

「まあ、同族のようですが、ね。」

私は深刻な作者を慰めるように明るく言った。


「同族…そうね、でも、間違いは間違いよ。

1980年代、天然痘の撲滅宣言と共に、ジェンナーのエピソードは、ワクチン無双のネタになっていたけど、ジェンナーの推しの牛は、免疫は出来なくて、偶然、そこにいたワクシニアウイルスに助けられただけなのよね。

そして、皆が皆、物語のように完治はしなかったんだわ。」

作者は悲しそうに空を見た。

「確かに、そうですね。」

私は作者と同じ空を見つめていた。


ここ数年のパンデミックの経験で、思うところがあるのでしょう。


「うん…。私もワクチンを信じない、否定派をバッタバッタと論破する物語は、好きだったわ。

でも、現実は、100%完治するような薬はないし、個体差があるからこそ、絶滅も防げるんだと思うから、それを疑う人も、また、耳を傾ける…そんな世界観で物語を作らなきゃいけないわよね?我々は。」

作者は寂しそうに笑った。

「はい。でも、読者も間抜けじゃないので、我々の物語を丸々信じたりはしませんよ。気を抜いていきましょう。」

私は笑った。

「ひどいなぁ…。でも、まあ、いいか。この話の間違いを探す、ダウト職人も…そんな楽しみもあっていいかもね。」

作者はそう言って立ち上がった。

「でもっ、そう思うけど、間違うのは嫌ぁぁ〜」


作者の叫びを聞きながら、静かに時が過ぎて行きました。


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