悪霊2
江戸川乱歩の『悪霊』
この物語りはミステリー雑誌『新青年』の1933年11月号から連載された作品である。
あらすじは、小説家が話のネタにと買った手紙の束からはじまる。
手紙の主の降霊術仲間の姉崎婦人を訪ねるが、土蔵で無惨な姿で亡くなっていた…
この話は、降霊術師やら、霊媒少女などが登場し、残忍で美しい…ラノベになりそうな話のまま、未完で終わってしまう。
「確かに、面白そうですが、難しいですよ。
何しろ、あの乱歩が謝罪文と共に未完にしたのですから。」
ため息が出た。
そう、有名人の未完を素人が…いいえ、例え、横溝先生が作られたとしても…それはただの二次作でしかないのだ。
作者はそんな私を不適に嘲笑う。
「そうね。ただ、話の続きをなろう作家が書いたって、文句を言われるだけ。それこそ、1話切りでおわり。でも、この作品は、我々なろう作家には魅力なのよ。」
作者は嬉しそうに笑ってコーヒーを飲んだ。
「確かに、魅力的…でしょうが、かなりの文才がないと読者の反感をかいますよ。」
私は、闇雲に何かを探しているような作者が心配になる。が、そんな私の言葉は別の意味で作者に突き刺さったようだった。
「悪かったわね。文才なくて。でも、いいのよ。
どうせ、ドイルが解こうと、私のいたずら書きだろうと、乱歩ファンが唸るわけないもん。
それに、ここは、なろうなんだから、犯人探しに重きなんておかなくてもいいのよ。」
作者はぶん投げるように無責任発言をする。
「いくら、なろうだからって、犯人がわからなければ、推理小説にはなりませんよ。」
「ふん。原作を読むと、障害者が印象悪く登場して、現代劇には使えないわ。
ここは、話を少し変え、異世界のテンプレを使うくらいの改変が必要だし、それは納得しつもらえると思う。」
「い、異世界ですか…」
「うん。有名人の転生と異世界は人気だもん。
転職の末、無職ニート、小説で一発当てたけど、そこで才能を使いきり、何とか別の才能で生き残った乱歩。
彼が、この作品に向けた希望、夢、挫折感…
それらは、我々、なろう作家の胸を打つのよ(T-T)
本当に、手に取るように。
だから、なろう作家で転生させても、それほど違和感は無いと思うのよ。」
作者はコーヒーを飲み干し、しずかにため息をつく。
「気持ちが理解できても…犯人がわからなければ、どうにもなりませんよ。」
乱歩は、2ヶ月、連載を休み、4月には読者に謝罪して、この物語を止めたのだ。
それなりに名前が売れた作家が、2ヶ月間も悶絶し、中断を決めたような作品を、果たして、作者が扱えるのか、心配になる。
作者はそんな私に眉間にシワを寄せて渋い顔で答えた。
「ミステリーの謎解きは、犯人だけに限ったものではないわ。
なぜ、乱歩は、作品を中断させたのか?
これだって、興味深い謎のひとつよ。
それは司馬遼太郎に私がなりきる話を書いても、それこそ1話切りでしょうよ。
でも、ちゃらんぽらんに生きながら、ミステリー小説に真面目だった乱歩を、何だかんだで、小説に純粋に向き合うなろう作家の目線で回想する…推理する話は割りと面白いと思うのよ。」
作者は少し酔ったように赤くなりながら目を伏せた。
「確かに、貴女の目線であの物語を再検証するのは楽しいでしょうね。」
私は、少し心配ではあったが、素直にそう感じた。
確かに、未完を増やすのも、おわらないのも嫌ですが、今までの目眩く、物語の探求は、とても楽しく、豊かなものだったから。
「わかってるわよ。やらないわ。そんなこと、してる場合じゃないの、わかるし、それに、克也の提案は、私の斜め上を走ってるもん。」
作者は酔いに誘われクスクス笑いだす。
「何をいわれたのですか?」
作者は私を見つめて、深く疲れたような顔でこう言った。
「克也はね、降霊術の集まりの話なんだから、乱歩の霊を呼び出して聞けば良いんだって、そう言ったわ(´-`)
それなら、当たっても、外れても、その過程が面白いし、読者もつくって。
確かに、面白いと思ったわ。夜中の2時に良い年のおばちゃんが、家族に内緒でリビングで降霊会をするのよ。
難しいことはないわ。水晶のペンダントを使って、簡単なダウジングをするの。はい、いいえ、の答えが出る奴ね。
途中まで、色々と引っ掛かったわ。
でも、そんなキャラクターを作るのは楽しいけど、自分が実験的にやるのは、ちょっと。」
作者はそう言って、椅子にもたれて寝てしまった。
私は、ブランケットをかけながら、お茶の道具を片付け始めました。
そして、思い付いて、作者のカップを皿にひっくり返しました。
コーヒー占いなら…どんな答えが出るのでしょうか?
しばらく、逆さのカップを見つめて、私は、また、仕事に取りかかりました。
占いの結果など…私には不要なのです。
なぜなら、私にとって、作者の物語だけが正解なのですから。